史上最高のサッカー選手は誰か ベテラン記者が振り返る「神の子」マラドーナの凄さ (4ページ目)
【最後までヒール的な存在】
「ビジャ」と呼ばれるブエノスアイレスの貧民街出身のマラドーナは、少年時代から家族を支え、そして、10代の終わりからはアルゼンチン代表の運命を握り続けた。あの国におけるサッカーの社会的重要性を考えたら、それはまさに国を背負って立つということだ。しかも、フォークランド(マルビナス)諸島を巡る英国との戦争に敗れ、長い軍事独裁政権が倒れて経済的な苦境に陥ったこの時期。アルゼンチンという国の名誉はサッカーの代表チームに懸かっていた。
そんなあらゆる重圧が、ディエゴ・アルマンド・マラドーナという人物にのしかかったのである。
ペレや、メッシが、紳士として振舞い続けたのに対して、マラドーナは最後まで"ヒール"的な存在であり続けた。それも、ある意味で彼に対する崇拝の念の源になっている。
同じアルゼンチン出身の反骨の革命家チェ・ゲバラと並んで、ディエゴ・アルマンドも体制に異を唱え続けるためアイコンとして崇められ続けたのである。
時空や対戦相手の心理を自在に操るかのようなプレーの数々、そして、常に世界の貧しい者たちの側に立つ数々の振舞い......。マラドーナは、さまざまな意味で、やはり「神の子」だったとしか思えない。
著者プロフィール
後藤健生 (ごとう・たけお)
1952年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。1964年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、1974年西ドイツW杯以来ワールドカップはすべて現地観戦。カタール大会では29試合を観戦した。2025年、生涯観戦試合数は7500試合を超えた。主な著書に『日本サッカー史――日本代表の90年』(2007年、双葉社)、『国立競技場の100年――明治神宮外苑から見る日本の近代スポーツ』(2013年、ミネルヴァ書房)、『森保ジャパン 世界で勝つための条件―日本代表監督論』(2019年、NHK出版新書)など。
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