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久保建英の才能を引き出したソシエダ指揮官の「仕組み」 退任発表は来季の去就に影響か

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

 久保建英が最も恩恵を受けた監督は誰か?

 それは間違いなく、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)のイマノル・アルグアシル監督だろう。

 アルグアシル監督は、選手のマイナス面よりもプラス面を見ることができる異能を持っている。アジア人だからといって、不必要なフィルターもない。選手の特徴や性格を見抜き、俊敏で技術が高く、コンビネーションに優れる久保を適応させた。ボールを大事に、相手陣内に運ぶためのプレーモデルを築き上げて運用。やるべきことが整理されているから、選手も迷いがないのだ。

 4月24日、アラベスに敗れたあとだった。そのアルグアシルが、ラ・レアルの監督を今シーズン限りで退任することを発表した。

レアル・ソシエダのベンチで久保建英に話しかけるイマノル・アルグアシル監督 photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIAレアル・ソシエダのベンチで久保建英に話しかけるイマノル・アルグアシル監督 photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIAこの記事に関連する写真を見る 久保の成功は、「アルグアシルの仕組みのなかに迎えられたから」と説明できる。

 2018-19シーズンからスペイン、ラ・リーガのマジョルカでプレーすることになった久保は、当時18歳で、1年目から"優秀新人賞"に値する活躍だった。大袈裟でなく、現地ファンの度肝を抜いた。結果、ラ・リーガで上位のビジャレアルに移籍することになった。

 しかし、ビジャレアルでは戦術的に選手を強く縛るウナイ・エメリ監督とソリが合わなかった。そしてシーズン中にヘタフェに移籍するも、再びホセ・ボルダラス監督のフィジカル色の強い守備的サッカーに辟易した。翌シーズンはマジョルカに戻ったが、最後はハビエル・アギーレの戦闘色の強いサッカーと合わずに失速している。

 少なくとも、当時の久保は「仕組み」を必要としていた。

 アルグアシル監督は、ラ・レアルでダビド・シルバというレフティの天才を中心にした"左利き天国"を作り出していた。単純に左利きは右利きより数が少なく、意外性を持っているし、彼らにしかないリズムがある。その特性を徹底的に絞り出し、他にもミケル・オヤルサバル、ミケル・メリーノ、ブライス・メンデス、アレクサンダー・セルロートなどスタメンの半数以上が左利きだった。

 久保の変身は、ダビド・シルバに触発されたことが大きいが、それもアルグアシルの「仕組み」のおかげだった。

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著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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