久保建英の才能を引き出したソシエダ指揮官の「仕組み」 退任発表は来季の去就に影響か (2ページ目)
【本人も自覚していた「サイクルの終焉」】
アルグアシル監督は、ラ・レアルにとっての"中興の祖"とも言える成果を挙げてきた。現役時代はラ・レアルの右サイドバックとして活躍した後、チームのテクニカルスタッフとして働き、下部組織スビエタの中心人物で、Bチームである通称「サンセ」を率いていた。降格の危機にあったチームを救ったあと、翌シーズンも再び降格圏から救い、そのあとはトップでの監督を続けてきた。
「根っからの育成畑の人物で、本当はトップをやりたいわけではない」
クラブ関係者はそう言っていたが、監督の資質に恵まれていたのだろう。ラ・レアルで5シーズン連続の欧州カップ戦出場という安定した戦いは、過去のどの監督もできなかった。2020年には34年ぶりのタイトル、スペイン国王杯優勝も飾っている。
今回、契約更新オファーはあっただけに、アルグアシルがサインをすることはできた。しかし、本人が「サイクルの終焉」を一番自覚していた。アレックス・ファーガソンやディエゴ・シメオネのような特例もあるが、たいていは5シーズンも指揮をとれば、どんな名将もアップデートに苦しみ、"仕組みの焦げつき"を感じるものだ。そして周りからの圧力は、自らの心奥深くまで蝕むのだ。
日本でも、久保がベンチになったり、早々と交代させられたりするたび、ネットでは監督への罵詈雑言が飛び交った。それを面白おかしく報じるようなメディアまであった。そんな瑣末なことが指揮官本人の耳に届いていたはずはないが、それらの悪意や憎しみは実体のない噂のように漂って、呪いとして監督に覆いかぶさるという。
第32節のビジャレアル戦、ラ・レアルの戦いは明らかに行き詰まっていた。ケガ人が多かったことはあるだろうが、後半からは5-4-1にして自陣まで引き、能動的なサッカーを捨てた。この試合は2-2で引き分け、貴重な勝ち点1を得たが、その代償は大きかった。サッカーの仕組みで、姿勢で、背を向けた。
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