マンチェスター・シティの両翼を務めるドクとボブ 欧州トップリーグのウイングは俊敏性の高い黒人選手が席巻する時代に
西部謙司が考察 サッカースターのセオリー
第10回 ジェレミー・ドク&オスカー・ボブ
日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。今回は、マンチェスター・シティの両翼を務めるジェレミー・ドクとオスカー・ボブの存在から、花形ポジション・ウイングとアフリカにルーツを持つ黒人選手の相性のよさを説明します。
【マンチェスター・シティの両翼、ドクとボブ】
コミュニティーシールド(昨季のプレミアリーグ優勝チームvsFAカップ優勝チームの対戦)でPK戦の末に勝利したマンチェスター・シティ。両翼にはよく似た選手が配置されていた。
マンチェスター・シティのドク(右)とボブ(左) photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る 左ウイングは右利きのジェレミー・ドク、右には左利きのオスカー・ボブ。ときおり、どっちがどっかわからなくなるふたりである。利き足も国籍も違うのに混同しそうになるのは、たぶん名前が何となく似ているからだろう。どちらも小柄で俊敏、サイドと利き足は異なるのだがプレースタイルも似ている気がする。
ドクはベルギー代表、生まれ育ちはベルギーだが、ルーツはガーナだ。ボブもノルウェーとガンビアの国籍を持つが、やはり生まれ育ちはノルウェーである。ともに2023年からシティのトップチームに登録された。ドクは22歳、ボブは21歳。コミュニティーシールドではふたり揃って先発している。
ドクはドリブルのキレが凄まじく、めいっぱい片側にステップを踏み出しても瞬時に反対方向へ体を持っていけるので、カットインはDFがわかっていても止められない。動き幅とアジリティ(敏捷性)が尋常でなく、さらに何度切り返しても体勢が崩れない。いや、崩れているのに復元できると言うべきか。キックの精度が増してくれば、得点とアシストを量産するだろう。もう、その一歩手前までは、いつでも持ち込めている。
左のドクに比べると、右サイドのボブは若干おとなしめ。とはいえ、瞬時にトップスピードにもっていける出力の変化は、やはり驚異的だ。ボールを懐に抱えるような持ち方に安定感があり、突破だけでなくパスもうまいし戦況も読める。純粋なウインガーであるドクとは少し違っていて、ボブはプレーメーカー的である。
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著者プロフィール
西部謙司 (にしべ・けんじ)
1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。