欧州サッカーでハーランドを筆頭に長身CFが活躍 得点力だけでない重要な役割とは?
西部謙司が考察 サッカースターのセオリー
第7回 アーリング・ハーランド
日々進化する現代サッカーの厳しさのなかで、トップクラスの選手たちはどのように生き抜いているのか。サッカー戦術、プレー分析の第一人者、ライターの西部謙司氏が考察します。今回は、プレミアリーグで2年連続得点王のアーリング・ハーランドを中心に、活躍が目立つ長身センターフォワードたちのプレーぶりを追います。
【特別なリーチ】
その名を知ったのは、2019年U-20ワールドカップだった。ノルウェー代表のセンターフォワード(CF)は、ホンジュラス戦で9ゴールをゲット。ノルウェーは12-0で勝利しているので、実力に差があったのは確かだが、それでも1試合で9得点は普通ではない。
ハーランド(左)とドフビク(右)。それぞれ昨シーズンのプレミアリーグ、ラ・リーガの得点王だ photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る ペナルティーエリア内での存在感が異質だった。とにかく大きいのだ。小学生のゲームに大人がいるみたい。技術的に特別な感じはなかったけれども、ボールに届く範囲が全然違うので地上戦でも空中戦でも簡単に点が獲れていた。
身長は195㎝。長身選手の多いノルウェーでもひときわ目立つ。大きいだけでなく速い。巨体を揺らして疾走するだけでも、観客を沸かせる迫力に満ちている。マンチェスター・シティでは2シーズン連続でプレミアリーグ得点王を獲った。
ドルトムントにいたころと比べると、シティのハーランドは長い距離をトップスピードで走る頻度が減っている。シティはボール保持力が抜群なので、相手チームが引いてしまうことが多く、カウンターアタックの機会が少ないからだ。そのため、ボックス(ペナルティーエリア)内でパスを受けてワンタッチでゴールする形が多い。U-20W杯でも見せていたリーチの長さが効いている。
普通の選手では届かないボールでも、ハーランドなら届いてしまう。瞬発力が抜群で、得点嗅覚も優れているのだが、何と言ってもリーチの差が大きい。
ケビン・デ・ブライネを筆頭に、シティの選手たちはこれまでにないラストパスを出すようになった。通常、誰も触れないコースやスピードでも、ハーランドだけはリーチできるからだ。ひとりのストライカーがパスの質を変えてしまったわけで、まさに規格外のCFである。
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著者プロフィール
西部謙司 (にしべ・けんじ)
1962年、東京生まれ。サッカー専門誌「ストライカー」の編集記者を経て2002年からフリーランスに。「戦術リストランテ」「Jリーグ新戦術レポート」などシリーズ化している著作のほか、「サッカー 止める蹴る解剖図鑑」(風間八宏著)などの構成も手掛ける。ジェフユナイテッド千葉を追った「犬の生活」、「Jリーグ戦術ラボ」のWEB連載を継続中。