EURO名場面 日本人の欧州サッカー熱がピークに 2004年ポルトガル大会はサッカー観が一変した名勝負も (4ページ目)
【予想外のギリシャ優勝】
対照的に、他国の人と群れようとしなかったのはドイツ人。まさに万国旗揺らめくなかで、自国民だけで固まろうとする姿は、少しばかり異様に映った。
その2年後、ドイツはW杯を開催した。組織委員長のフランツ・ベッケンバウワーは「このW杯をドイツ人の好ましくないイメージを払拭する大会にしたい」と述べた。ドイツ人は自身の不人気を自覚するがゆえに、他国のファンと交わろうとしなかったようだ。自国開催の2006年W杯の話をすれば、ドイツ人は作り笑顔ではないかと疑りたくなるほど、フレンドリーに接してきた。
それはともかく、EURO2004を語る際、決勝で開催国ポルトガルを下して優勝したギリシャを外すことはできない。そのサッカーを「守備的だ」と言う人は少なくなかった。実際、ギリシャはどの試合でもたいてい、押し込まれていた。しかし、そのサッカーは本当に守備的だったのか。
ギリシャ人は日本人には言われたくないと思ったはずだ。4-2-2-2で戦う当時の日本代表、ジーコジャパンに比べたら、4-3-3で通したギリシャのほうがはるかに攻撃的だった。ギリシャの押される時間が長かった理由は、引いて構えたと言うより、相手との戦力差に起因する。
振り返れば、EURO2004は何と言ってもスタジアムがよかった。2年前に開催された日韓共催W杯の日本側のスタジアムといやでも比較することになった。ホスピタリティしかり。ポルトガル人は欧州一と言いたくなるほど優しかった。お迎えする精神に富んでいた。旅も快適そのものだった。食事も、欧州のどの国の料理よりも日本人の口に合った。筆者は大会期間中、イワシの塩焼きを100匹は食べている。
もう一度行きたい大会の一番手にランクされるだろう。ポルトガルが共催国のひとつに名を連ねる2030年のW杯が待ち遠しい限りだ。
著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。
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