EURO名場面 攻めるオランダ、守るイタリア...欧州サッカーの真髄を見た (4ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

【魅力的だったオランダのサッカー】

 両国のサッカーの実力は、この頃が最も開いていた。この大会でオランダがベスト4入りしたのに対し、ベルギーはグループリーグ落ち。オランダサッカーの活気が眩しく映った。

 1994-95のチャンピオンズリーグ(CL)でアヤックスが優勝すると、それに触発されるように欧州では攻撃的サッカーのムーブメントが高まりを見せる。天下分け目の一戦と言われた1997-98のCL決勝で、レアル・マドリードが守備的なユベントスを倒すと、その流れはさらに加速した。オランダは1998フランスW杯で、ブラジルに準決勝でPK戦の末に負け、ベスト4に終わったが、欧州の各メディアはオランダを「大会で最もいいサッカー」をしたチームと絶賛した。

 その2年後、EUROでもオランダは準決勝まで勝ち上がった。イタリアとの一戦を前にロッテルダム市庁舎前の噴水は、通常の透明な水ではなく、オレンジ色を吹き上げていた。

EURO2000準決勝で、オランダを破り喜ぶイタリアの選手たちphoto by Reuters/AFLOEURO2000準決勝で、オランダを破り喜ぶイタリアの選手たちphoto by Reuters/AFLOこの記事に関連する写真を見る 他国が攻撃的サッカーに移行するなか、ディノ・ゾフ監督率いるイタリアは、「我こそが守備的サッカー最後の砦」と言わんばかりに、オランダの前に立ち塞がった。ところが5-2-2-1でスタートしたイタリアは、0-0で迎えた前半34分、右ウイングバック、ジャンルカ・ザンブロッタが、オランダのFWボウデヴィン・ゼンデンの足をかっさらい、2枚目のイエローで退場になる。試合は11対10の戦いになった。

 攻めるオランダ、守るイタリア。この構図は120分間続くことになった。PK戦を制したのはイタリア。その前に2本、PKを失敗していたオランダは、PK戦でも4人蹴って3人が外すという体たらくに陥った。笑ったのはロッテルダム市庁舎前の噴水。翌日、その色はオレンジ色からイタリアのブルー=アズーリに変わっていた。悲しみを笑いに変えるオランダ人のセンスに感激した記憶がある。

 オランダは2年後の2002年日韓共催W杯では欧州予選で敗退している。ダブリンで行なわれたアイルランドとの一戦に敗れ、敗退が確定的になったその夜のことである。筆者はダブリン繁華街でオランダ人が暴れていないかとカメラを持って探索した。ところがパブを覗けば、オランダ人は「俺たちの分まで頑張って来いよ」的な美しい台詞を吐き、アイルランド人と熱く抱擁していた。

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