ブラジル人記者が嘆くセレソンの現状 モロッコ戦後の主将カゼミーロのひと言に、国民は世界の終わりを感じた (3ページ目)

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

【南米最強のブラジルはもういない】

 この試合がA代表デビューとなったロニはパルメイラスの得点王で、ブラジルリーグでは屈指の強さを見せる。誰もが彼のゴールを期待し、彼自身も代表レギュラー入りするためにかなり気負ってこの試合に出たはずだ。確かによく走ってはいたが、なんのテクニックもなく、結果的にはこの日のFWのなかで一番活躍していない選手となった。

 ミスの連発と攻撃力の欠如は、このセレソンに魂とスタイルがないことを明らかにした。試合後ヴィニシウス・ジュニオールは「これ以上の点差で大敗しなかったのはラッキーだった」と発言。キャプテンを務めピッチで最年長だったカゼミーロも「今の状況では......今回のこの結果は、うまくいったと言うべきだろう」と語った。

 これを聞いたブラジル国民は、世界の終わりを感じた。セレソンのキャプテンが敗れた試合を「うまくいった」と評価したのだ。彼のこの言葉は、今のブラジルを一番如実に表しているかもしれない。

 負け犬となった選手たちは、頭を垂れてピッチを後にした。ここ数年、我々が見てきた南米最強の、W杯予選で最高ポイント記録を叩き出したブラジルはもういない。ひとつのサイクルが終わった。だが、新しいサイクルが始まる兆候は見られなかった。一番の問題はここだ。

 新しい時代に踏み出すにはふたつの大きな問題がある。誰がブラジル代表監督になるのか。そしてCBFはどんなプロジェクトを持っているのか。これら先に進むに必要不可欠なものがまるで見えてこないのだ。

 CBFは代表監督にブラジル人以外の大物監督を探している。これまでの歴史のなかで、ブラジル代表は一度も外国人監督を招聘したことはない。なぜ外国人を呼ぶ必要があるのか。「彼らはブラジルのリーグもチームも選手もスタイルも、なによりブラジル人のメンタリティーというものも知らないじゃないか!」と、代表を率いることを期待していたブラジル人監督たちは怒り、失望している。これはブラジル人としてのアイデンティティーの問題でもある。

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