ブラジル人記者が嘆くセレソンの現状 モロッコ戦後の主将カゼミーロのひと言に、国民は世界の終わりを感じた

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

 ブラジルが親善試合でモロッコに敗れた。いくらW杯4位だったとはいえ、ブラジルがモロッコに負けるのは普通のことではない。実際、モロッコにとっては史上初のブラジル戦勝利だった。

 だが私はこの敗戦に怒ったり、悲観したりはしていない。なぜならこの試合はブラジルにとって、まるで意味のないものだからだ。今回のチームはあくまでも暫定的な、モロッコと戦うために仕方なく作られたセレソン(ブラジル代表)だ。それよりも私が嘆き、憂いているのは、ブラジル代表の現状、そしてこれからだ。

 この試合のブラジルには監督も、選手も、そしてネイマールもいなかった(ケガのため招集にされなかった)。カタールW杯後、ブラジル代表は空中分解したままだ。クロアチア戦で敗れたのち、チッチ監督は何も言わないままピッチを去り、チームを去った(大会前から辞任は決めていたが、それでも後味のいい去り方ではなかった)。その後任はなかなか決まらない。おかげで新たなチーム作りは遅々として進まない。

モロッコ戦で主審につめよるブラジル代表主将のカゼミーロ photo by Reuters/AFLOモロッコ戦で主審につめよるブラジル代表主将のカゼミーロ photo by Reuters/AFLOこの記事に関連する写真を見る 正直、こんな状況でブラジルは親善試合などしたくなかった。他の代表チームのほとんどはこの間に2試合をしているが、ブラジルが戦ったのはこのモロッコ戦だけだ。それも単純にCBF(ブラジルサッカー連盟)のポケットに金を入れるためだった。一説によればこの試合のためにモロッコは150万ドル(約2億円)を払ったと言われている。

 暫定監督としてこの試合のセレソンを率いたのは、かつて日本の東京ヴェルディでもプレーしたラモン・メネゼスだ。彼は現U-20代表監督であり、2カ月後にはU-20W杯を控えている。そのため彼は自分の選手たちに経験を積ませるため、このチャンスを利用した。アンドレイ・サントス(バスコ・ダ・ガマ)、ヴィトール・ロッキ(パラナエンセ)、ロベルチ・レナン(ゼニト)などがA代表デビューを果たした。ちなみにロッキはこの日18歳と25日。1994年にロナウドが17歳でデビューして以来の早いデビューとなった。

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