カタールW杯でポルトガルの初優勝はあるか。最高レベルのテクニックの選手たちが慎重に戦って安定感 (3ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

強さを手に入れて強豪へ

 1990年代のポルトガルは、プレーの美しさでは歴代最高だったと思う。しかし、大舞台を勝ち抜くには何かが欠けていた。

 1つは得点源。黄金世代は守備も固く、中盤のテクニックはすばらしかったが、明らかに決定力不足だった。偉大なエウゼビオの後継者が現れるのは、クリスティアーノ・ロナウドまで待たなければならなかった。

 もうひとつはメンタルだろう。2004年の自国開催のユーロでは優勝候補と目されていたが、ポルトガル人で優勝できると思っていた人はたぶん少ない。大会中に街中で話を聞いても「せいぜいベスト4」「優勝はブラジルかドイツ。あ、ユーロだからドイツか」といった回答ばかり。スタジアムでも失点するとサポーターはシュンとなってしまう。

 欧州の西に位置するポルトガルは、ドイツやフランスを「ヨーロッパ」と呼んでいて、自分たちも欧州人だという自覚があまりなかった。そうしたおとなしさが何となく代表チームのプレーぶりにも表れていた気がする。2004年のユーロは決勝まで進んだが、開幕戦で敗れたギリシャに再び負けて準優勝に終わってしまう。

 ただ、このユーロは転換点だった。ブラジル人のフェリペ・スコラーリ監督が勝負強さを植えつけ、2006年ドイツW杯では4位まで勝ち進んだ。ユーロ2004で国際大会デビューしていたロナウドはエースに成長、2016年のユーロではフランスを破って優勝し、初のビッグタイトルを手に入れた。この時のポルトガルもテクニックは相変わらず高かったが、ノックアウトステージからは守備型の戦術にシフトして粘り強い戦いぶりだった。

 1990年代に夢のある黄金世代のチームが現実の壁に突き当たり、その後は現実主義をとりいれて結果を出した。1980年代にシャンパン・フットボールと呼ばれて華やかだったフランスが、その後に強固な守備のチームで1998年フランスW杯に初優勝したのと少し似ている。

 カタールW杯に臨むフェルナンド・サントス監督は9年目の長期政権。堅実さが持ち味で、黄金世代にあった「軽さ」は払拭されている。それでいてタレントは黄金世代を上回る充実ぶりだ。

ポルトガル代表の主要メンバーポルトガル代表の主要メンバーこの記事に関連する写真を見る ボールを保持して相手を圧倒できる力があるにもかかわらず、ミドルゾーンで守備ブロックを置く慎重さが目立つ。ある程度、相手にボールを持たせても構わない。守備の固さには自信があるのだ。少し引いて、カウンター時にFWの個の強さを生かすこともできる。

 最高レベルのテクニックがありながら、それを前面に押し出すのではなく、いくぶん抑制的に戦う。かつての華やかさのかわりに安定感を手にしている。準強豪という位置づけのポルトガルだが、本格的に強豪国の仲間入りをするチャンスかもしれない。

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