ドイツ代表監督を「何、それ?」。現地で話題の浅野拓磨は「一戦一戦、毎日頑張るだけ」と、黙々とW杯メンバー入りを目指す

  • 了戒美子●文 text by Ryokai Yoshiko
  • photo by AFP/AFLO

 4月上旬、ドイツ国内で浅野拓磨のことがちょっとした話題になった。

 4月1日のW杯抽選会で日本とドイツが同じ組になった翌日のホッフェンハイム対ボーフム戦。試合は浅野の2ゴールによりボーフムが2-1で勝利した。この試合にはドイツ代表監督、ハンジ・フリックが視察に訪れていた。ホッフェンハイムには3月の代表ウィークにも招集されていたダビド・ラウム(この試合でも1得点)がいるし、他にも見たい選手がいたのかもしれないが、そのフリックの目の前で浅野は2ゴールを決めたのだ。

 そして、試合後のテレビインタビューに呼ばれた浅野は「ハンジ・フリックを知っているか?」と聞かれると、「ハンジ・フリック? 何、それ?」と答えたのだった。

「誰、それ?」ではなく、「何、それ?」というリアクションが、ハンジ・フリックを人名として認識していなかったことを示していた。Jリーグに在籍する外国籍選手がどれほど森保一監督を認識しているかと考えると、浅野がドイツ代表監督を知らなくても特別不思議なことでもないだろうが、試合直後のテレビインタビューだったこともあり、話題となったのだ。

 その数日後、ボーフムの練習場を訪れると、「ビルト」紙の記者が話しかけてきた。「今日は浅野にフリックのことを本当に知らないのか聞きたいんだ」と言う。追加取材をしたくなるほどの関心事なのだろう。実際、その記者が浅野に直接それを聞くと、浅野は笑いながらこう答えた。

「知らなかったけど、今はもう知っているよ。みんなにそのことばかり言われるよ」

 続けて記者は「フリックの目の前で2ゴールしたことで、君の存在が彼に知られたわけだけど、気にならない?」と聞いた。

今季はリーグ戦23試合に出場、3ゴールを決めている浅野拓磨(ボーフム)今季はリーグ戦23試合に出場、3ゴールを決めている浅野拓磨(ボーフム)この記事に関連する写真を見る「まったく気にならない。だいたいフリックは僕のチームの監督じゃない。自分のチームの監督だったら気になるかもしれないけど。そもそも僕は自分のプレー以外のことは気にならないタイプなんだよね。W杯に出たいのはもちろんだけど、そのためにもボーフムで一戦一戦、毎日頑張るだけなんだよ」

 記者の質問を半ば笑い飛ばしながら、そう答えていた。「知ってもらえて光栄なことだ」というようなリップサービスがない、浅野らしい回答に思えた。

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