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ドリブル突破以上の価値。相手ボールを奪う役割「ボールウィナー」活躍の歴史 (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 この66年大会ではイングランドのノビー・スタイルズもボールウィナー型だった。攻撃面では柔軟なテクニックとクレバーな配球をする選手だったが、守備では相手のエースをマークしてファウルを連発するダーティーさを併せ持っていた。

 タフで汚れ役を厭わないMFはどの国にもいて、「手斧師」とか「殺し屋」など物騒なニックネームがつけられていたものだ。ただ、マンツーマンで潰す役割はしだいになくなった。ハビエル・マスチェラーノ(アルゼンチン)、エドガー・ダービッツ(オランダ)、ジェンナーロ・ガットゥーゾ(イタリア)など、この系譜を継ぐ選手たちはいたが、特定の相手をマークする役割ではなくなっている。

<黒人選手の台頭>

 ボールウィナーは、例外なくハードワーカーである。ボールに近づかなくては奪えない、近づくには走らなければならないからだ。常に的確なポジションに移動しつつ、相手に寄せきってボールを奪う。

 そもそも相手に寄せきるにはパスが出てからでは遅く、パスが蹴られた瞬間にはスタートを切っていなくてはならない。その予測能力、アクションの速さ、スプリントからの急激なストップで自分の体を完全にコントロールできる筋力の強さやバランス感覚が、不可欠になる。

 ボールを奪ったあとのプレーも当然問われる。奪ったボールを簡単に相手に渡してしまうようでは意味がない。確実につなぐ、さらにゴールに直結するようなプレーも要求される。

 1998年フランスW杯で優勝したフランスのキャプテンだったディディエ・デシャンは典型的なボールウィナーだが、このポジションを進化させたのはのちに続く世代だ。パトリック・ビエラは192cmの長身、長い足を相手の懐に差し込んでボールを奪う。プレーメーカーとしての能力も高く、フランス代表とアーセナルで大活躍した。ビエラに代表される黒人選手が台頭し、このポジションと役割の主役になっていった。

 2006年ドイツW杯でビエラとコンビを組んだクロード・マケレレは小柄で俊敏、レアル・マドリードやチェルシーで抜群の存在感を示した。無尽蔵のスタミナ、ボールへの反応の速さは格別で、現在のエンゴロ・カンテとよく似ていた。マケレレ以前にはジャン・ティガナというモデルもある。

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