史上1対1に最も強い右ウイング。フィーゴは1対98000の勝負にも挑んだ (3ページ目)
相手の逆を突く駆け引きに長けているからだ。「あっち向いてホイ」というお遊びに滅茶苦茶強い人という感じだ。相手SBがあっちを向いた瞬間、その逆を突く。しかも内ではなく、断然、難易度が高い縦方向に、だ。
相手の顔色をうかがったり、足のステップを注視したり、ボールを微妙にずらしたりしながら、その瞬間を探る。研ぎ澄まされた感性をフルに発揮しながら、1対1に及ぶ。全盛時の勝率は優に5割を超えていた。これ以上の確率で縦に抜ける選手は、世界広しといえどそういない。
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フィーゴは2000-01シーズンを前に、バルサからレアル・マドリードに電撃移籍した。激怒したバルサファンは、フィーゴがバルセロナ市内で経営していた日本料理店にも破壊行為に及んだ。2001-02シーズンのクラシコでは、フィーゴがCKを蹴ろうとした際に、豚の頭が投げ込まれるという事件も起きた。
試合は中断。ピッチにいるのは危険と判断した両軍の選手は、ロッカールームに引き上げていった。ひとりを除いて。
その時のフィーゴの振る舞いを忘れることはできない。カンプノウを埋めた98000人あまりの観衆は、ロッカーになかなか下がろうとしないフィーゴに、さらに激しいブーイングを浴びせかけた。センターサークルにひとり立つフィーゴは、そこでカンプノウの観衆に、肩をすくめて両手を広げる、ラテン人特有のポーズを取った。なぜブーイングするんだ? 観衆にそう語りかけているようだった。
バルセロニスタから愛されていたが故の愛憎劇とは、現地の記者から聞かされた説明だが、その意味はよくわかった。フィーゴはカンプノウのタッチライン際の魔術師でありアイドルだった。スタンドから最も近い位置でプレーする選手として、喝采を浴びていた。それが、レアル・マドリードの右ウイングとして活躍すれば、最も憎き選手になる。
フィーゴはなおピッチに立ち続けた。ブーイングが吹き荒れる中で、ボールリフティングを披露した。この1対1ならぬ1対98000の関係は、いまも脳裏から離れない、見応え十分の応酬だった。
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