「鬼滅の刃」を読むとサッカーがより面白くなる。共通点は多数あり (3ページ目)

倉敷 コミックス23巻で完結しましたが、連載時には掲載されなかったアディショナルタイムの部分が感動の余韻を与えてくれましたね。最後に添えられた吾峠先生からのメッセージは感動的で良質の試合を観たあと胸に残る清涼感そのものでした。

「鬼滅の刃」はそれぞれのパートがリーグ戦の1対1であり、ひとつの試合でもあり、最終的にはトーナメントとして完結しています。ドラマチックな構成のすばらしさはチャンピオンズリーグやワールドカップの名勝負と比較しても引けを取らないレベルです。炭治郎と妹の兄妹愛、柱をはじめ鬼殺隊員の思い、そして敵である鬼たちにさえ同情の念を禁じ得ない悲しいストーリーもあるわけですが、それぞれの戦いのなかに巧みな戦術、技術、言葉があります。

 サッカーも肉体と心の要素で戦う競技なので、単に勝ち負けだけを見ていると深みは感じられないものです。物語をつくるのは人だから、サッカー界にも素敵な言葉が積み重ねられています。「鬼滅の刃」は人の思いの物語ですから、なにより竈門炭治郎というキャラクターありきですね。僕はコロナ禍で疲れたこの時代には炭治郎のメンタルがなによりも必要だ、思えるくらいにファンなのです。

中山 今、世の中の多くの人が、炭治郎のような人物を求めていると思います。これがバブル時代であったら、もしかしたら超がつくほど真面目で誠実な炭治郎のことを鼻で笑うような人が多数を占めていたかもしれません。でも、今は悪いことをしても平気で嘘をついて逃げきってしまうような不誠実な人が目立っているので、逆にあの誠実さや寛容さを人々が求める時代になっているような気がします。

倉敷 頑張り屋さんで家族思い、仲間思い。崩れていく鬼の手を汚らわしいとか不浄のものなどとは考えず、躊躇わず握ってやれる優しさ。人の感情さえも嗅ぎ分ける繊細さ。炭治郎には小さな子どもたちにも共感できる。「全集中の呼吸で」とお医者さんに言われると苦手な注射でさえ我慢できる子どもたちがいる。すごい影響力ですね、自分も頑張ろうという気持ちになれる。作品の内外で頑張りと勇気と優しさを老若男女に分け与えてくれる炭治郎は本当に魅力的です。

(第2回につづく)

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