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中田英寿の脚を削りベッカムを一発退場に。シメオネのすごすぎる武勇伝 (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 赤木真二●写真 photo by Akagi Shinji

 シメオネがそこでとった行動は、迫ってきたゲレーロの右足太ももを、スパイクで踏みつけることだった。テレビカメラがアップで映しだしたゲレーロのユニフォームには、ぱっくり穴が開いていて、そこから血がたらたらと溢れ出ていた。あまりにも生々しく、痛々しいショッキング映像。正視できず、目を手で覆い隠した記憶がある。

 1998年4月28日と言えば、日本が初出場したフランスW杯まで1カ月半を切った段階だった。日本がW杯の初戦で戦うアルゼンチンが、リオの旧マラカナンで、ブラジルと親善試合を行なうということで、偵察がてら現地まで観戦に出かけた。

 スタジアムに詰めかけた観衆9万9697人の中にアルゼンチンサポーターはゼロ。肉眼で発見することはできなかった。まさに完全アウェーとなったアルゼンチン代表が、ピッチに姿を現すと、スタンドは地鳴りのようなブーイングに包まれた。

 先頭を切ったのはシメオネだった。ピッチへと通じる扉が開くや、激しい逆風が吹き荒れるその中へと、特攻隊員のごとく猛然と出撃していった。間近で見ていたので、その形相、面構えは、いまでも鮮明に記憶する。完全に"いってしまった"人のようだった。

 いったんスイッチが入ると、戦闘隊員と化すのがシメオネだ。喧嘩なのか、プレーなのか。その境界が他のどの選手より鮮明ではないところに、なにより怖さを抱かせる。1998年6月14日、トゥールーズで行なわれたフランスW杯日本戦でも、中田英寿に強烈なタックルを見舞っていた。

 そのうえ計算高い。1998年6月30日。サンテチエンヌで行なわれたフランスW杯決勝トーナメント1回戦。2-2からアルゼンチンが延長PKでイングランドを下した試合だが、ここでもシメオネは本領を発揮した。

 デビッド・ベッカムはボールを受けた瞬間、シメオネに後ろから激しくチャージされた。ピッチに倒れたベッカムが、先に立ち上がったシメオネに、足を振り上げると、シメオネは、待ってましたとばかりに転倒。この応酬を目の前で見ていた、長身のデンマーク人の主審、キム・ミルトン・ニールセンは、ベッカムの足上げを報復行為と見なし、一発レッドに処したのだった。

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