2021.01.27

中田英寿の脚を削りベッカムを一発退場に。シメオネのすごすぎる武勇伝

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 赤木真二●写真 photo by Akagi Shinji

異能がサッカーを面白くする(2)~武闘派編

 取材で海外を訪れると、スリ、かっぱらいの被害に遭わないように、気を引き締め直す癖がついている。「人を見たら泥棒と思え」とは言いすぎだが、隣の人、すれ違う人に対して、かなり敏感になる。幾度もやられた苦い過去があるからだ。とりわけレベルの高いツワモノが待ち受けているのはラテン系の国々だ。

 すぐ転ぶ。すぐ痛がる。すぐに審判に文句を言う。肘撃ちはするし、足は踏む。彼らは、ピッチ上でマリーシアをいかんなく発揮する現地のサッカー選手と重なって見えた。

 日本社会の通念から大きく外れた、まさにスポーツマンシップに反するそのプレーに、当初は違和感を抱きっぱなしだった。理解しがたい気質に慣れるまで、時間を費やしたものだ。ピッチ上の戦いを見ていれば、スリやかっぱらいが街中に多数潜んでいる理由が、十分納得できるのだった。

現役時代はアトレティコ・マドリード、インテル、ラツィオなどで活躍したディエゴ・シメオネ 筆者が観戦した中で最も酷かった試合は、1991年コパ・アメリカ、チリ大会だ。7月17日、首都サンティアゴで行なわれた決勝リーグ、ブラジル対アルゼンチン戦。試合は、後半16分までに赤紙が両軍に2枚ずつ提示される大荒れの展開になった。アルゼンチン選手が陰で挑発し、カッときたブラジル選手が報復するというパターンが、くり返されていた。

 終盤を迎えてピッチ上の人数は9対9。スコアは3-2でアルゼンチンがリードしていた。時のブラジル代表監督は、その3年後に日本代表監督に就任することになるパウロ・ロベルト・ファルカン。1982年スペインW杯で「黄金の4人」の1人として活躍した名手である。ジーコとは違い、感情を表に出すタイプではない、どちらかと言えば物静かなタイプだった。

 こちらを驚かせたのは、そのファルカンが、終了間際に行なった怒りの采配になる。ジョアン・パウロというドリブラーに代わって送り込まれたカレッカ・テルセーロ(第3のカレッカ)は、ピッチに入るや、いきなりアルゼンチン選手に向けて唾を吐いた。そして主審から赤紙をかざされる前に、自らピッチを去っていった。