「狂わないとできない」。バルサのGKが背負わされる重い十字架 (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 中島大介●写真 photo by Nakashima Daisuke

 ところが、ブスケッツはゴールキーピング力が低すぎた。シュートに手が届かない。足技は優れていたが、それに溺れてしまい、ボールを奪われては失点を繰り返すことになった。高さの不安も致命的で、国際試合では使いものにならなかったのである。

 ブスケッツはGKを革新できなかった。その遺産が、息子セルヒオ・ブスケッツと言えるかもしれない。

◆バルセロナはなぜ「ワールドクラスでない」GKを獲得したのか

 しかし、バルサはプレー哲学に従い、ブスケッツが失敗した後もGKに足技を求めてきた。ポルトガルのビトール・バイア、ドイツのロベルト・エンケ、アルゼンチンのロベルト・ボナーノ、オランダのルート・ヘスプなど各国の有力GKを登用したが、いずれも定着できていない。そこでバルサが目を向けたのは、やはりマシアだった。

 冒頭のバルデスがトップデビューを飾ると、ひとつの時代が築かれた。

 驚くべきことだが、バルデスはトップ昇格が決まっていた段階でも、「サッカーをやめたい」と思い続けていたという。失点をする。その屈辱に耐えきれなかった。バルサは攻撃重視で、いつも守備は手薄。ピッチでは戦う前から失点する光景が見えてしまい、嫌気がさした。何が面白くて続けているのか、わからなかった。

 バルデスはそれほどに、GKというポジションに真剣だったのだろう。狂気的ですらあった。

「バルサのGKとしてプレーするなら、狂わないとできないところはある。カンプノウのファンは、バルサが前がかりで戦うのを好むのに、失点すると『無様だ』という空気になる。絶対にミスは許されない」

 そう語るバルデスが編み出したバルサGKの生き方は独自だった。

 2008-09シーズン、チャンピオンズリーグ決勝マンチェスター・ユナイテッド戦の前、ジョゼップ・グアルディオラ監督は映画『グラディエーター』を編集したモチベーションビデオを流し、奮起を促した。フィールドプレーヤーたちは、士気を高めることになった。おかげでチームは勇敢に戦い、勝利を得た。

 しかし、バルデスはそのビデオに何も喚起されなかったという。

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