EL決勝は虚々実々。稀代の戦術家
ウナイ・エメリが真髄を見せるか

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Reuters/AFLO

 その後は2部、3部のクラブを転戦し、最後は膝のケガに見舞われる。33歳のときだった。所属していた2部B(実質3部)ロルカが監督を更迭。すでに監督ライセンスを取得していたエメリに白羽の矢が立った。

 熱心な勉強家で、指導者としての才覚があったのだろう。エメリはロルカを2部に昇格させただけでなく、次のシーズンには5位に躍進させている。

「選手時代から、監督が舌を巻くほどの戦術家だった」と言われるエメリは、勝利を積み上げていった。2部のアルメリアを率いた時は1部へ昇格させている。そしてなんと1部でも8位に躍進。すべて30代での出来事である。

 エメリは気鋭の監督として、その後もバレンシア、スパルタク・モスクワ、セビージャ、そしてパリSGで実績を残していった。バレンシアでは3シーズン連続でチャンピオンズリーグ出場権を獲得。セビージャでは、ELで3連覇の偉業を達成している。そしてパリSGでは国内カップ、国内リーグを制した。ディテールにこだわった戦術が、各チームで功を奏したのである。

 アーセナルでのエメリは、戦術家としての真骨頂を見せる。4-2-3-1というフォーメーションを軸にしながらも、変幻自在にさまざまな布陣を採用。相手次第で最善の戦い方を見つけ出している。

 バレンシアとのEL準決勝第2戦の戦い方も老獪だった。ホームの第1戦で得た3-1という勝利のアドバンテージを守るのを優先。5-2-3という守備カウンター戦術を選んだ。前線の3枚がしつこくプレスしながら、中盤の2枚がコースを遮り、バックラインが押し上げ、スペースを消し、敵のよさを前から封じた。一方で、押し込まれたら、集中的にリトリートし、堅牢なブロックで対応している。

「逆風の中で、戦い抜くことができたと思う。完璧な試合をやってのけた」

 エメリはそう振り返っている。

 攻撃は中盤でつながず、とくに中央は、カウンターを浴びる危険があるため、極力使っていない。徹底的にサイドから仕掛け、敵の脇腹にジャブを打ち込んでいる。一方で、高さと速さで先手を取れるエメリク・オーバメヤンやアレクサンドル・ラカゼットへ、狙いを込めた長いボールを入れた。

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