2019.05.27

稀代のドリブラー、ロッベンは
「ドリブルをするな!」の国で生まれた

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】
オランダからロッベンに愛を込めて(前編)

 誰かを理解したければ、その人物が生まれ育った場所を訪ねてみるといい。

 過去10年間のブンデスリーガで最も優れた選手とも言われ、35歳の今季限りでバイエルン・ミュンヘンを去るアリエン・ロッベンは、オランダ北部のベドゥムという村で生まれた。風が冷たく、なんの取り柄もない村だ。

ブンデスリーガ最終節、アリエン・ロッベンにバイエルンのファンから拍手が送られた photo by Getty Images オランダの北部からは優れたフットボール選手が出ていない。ベドゥムからは有史以来、ひとりも生まれていない。今までこの村で有名だったのは、傾いた教会の塔があることくらい。イタリアのピサの斜塔より傾いていることが、村人たちの自慢だった。

 地元クラブのVVベドゥムは、ロッベンに教えることが何ひとつなかった。だから、ロッベンはオランダ人ではあるものの、あまりオランダのフットボール選手らしくない。彼が特別な存在になった要因は、ここにあるかもしれない。

 オランダの優れたフットボール選手は、たいていアムステルダム育ちだ。小学生のうちにアヤックスに入り、オランダの「トータル・フットボール」を理解するための幾何学的で複雑なトレーニングによって鍛えられる。ついでに、アムステルダムっ子特有の傲慢さも身につける。

 ウェスレイ・スナイデルやラファエル・ファン・デル・ファールト、ナイジェル・デ・ヨングのことを思えば、そのあたりはわかるだろう。みんなロッベンと同様、1983、84年に生まれたオランダの「黄金世代」だ。

 もしロッベンがアムステルダムのあるオランダ西部で育っていたら、後に彼の最大の武器となるドリブルは、コーチに禁じられていたかもしれない。僕はオランダ西部で育ったが、子どもの頃にフットボールをやっていて、誰かが長くボールを持つと、「ニート・ピンゲレン!(ドリブルをするな!)」という声がすぐに飛んだのを覚えている。オランダでは8歳の子どもでも、「ボールは人より速く走る」ことを知っている。

 しかしロッベンは、人にほとんど教わったことがない「自然児」だ。よちよち歩きで風船を蹴飛ばしていたころから、好きなようにやってきた。やがてロッベンは、歴史を逆行するかのように、かつてのブラジルの名ウィンガーであるガリンシャのオランダ版になった。