コロンビア率いる名将ペケルマン。その哲学と弱点 (2ページ目)

  • 三村高之●文 text&photo by Mimura Takayuki

 またペケルマンは筆者に、ある選手をJリーグのクラブに紹介できないか、と頼んできたことがある。その選手はアテネ五輪金メダリストのメディーナ。イングランドやスペインでプレイし、A代表に入った経験もあるが、その後は調子を崩し、所属も国内の2部リーグのクラブになっていた。しかし、環境を大きく変えれば輝きを取り戻せると考え、Jリーグ入りを望んだのだ。かつての教え子とはいえ、当時は直接関係がなくなっていた選手のため、アルゼンチンの元代表監督が一介の記者に頭を下げる。こうした情の厚さにより、彼は選手たちから絶大な信頼を得ている。

 ペケルマンがこれほど選手に対して親身になるのは、サッカーの本質は「人」であり、システムや戦術は二義的なもの、という信念があるからだ。どんなに高度な戦術を用いても、選手の質が低かったり充分なパフォーマンスを発揮できなければ、チームは機能しない。選手の集合体であるチームを強化するためには、選手の質を高めることが不可欠。しかしたとえ優れた選手が揃っても、チームワークが悪ければ好成績は望めない。

 そこでまず、選手個々と完璧な人間関係を築き、そこからチームワークを高めていく。ペケルマンは現役時代、コロンビアで3年間プレイし、その国民性を理解している。またコロンビア代表の選手たちは、数々の実績からペケルマンを尊敬している。こうした好条件に加え、積極的に選手とコミュニケーションを取ったことで、チームをまとめあげることに成功した。

 彼のチーム作りの特徴は、中心選手を決めることだ。3回世界王者になったアルゼンチンU-20代表では、95年イバガサ、97年リケルメ、2001年サビオラが、そして06年ドイツW杯ではリケルメが中心となった。中心選手が最もプレイしやすいように、あるいは彼が最高のパフォーマンスを発揮できるように、他の選手は全力でサポートする。チームの決まり事として、これほど単純で分かりやすいものはない。

アリエル・イバガサ...元アルゼンチン代表MF。マジョルカ、アトレティコ・マドリードなどで活躍。現在はオリンピアコス
ハビエル・サビオラ...元アルゼンチン代表FW。バルセロナ、レアル・マドリードなどで活躍。現在はオリンピアコス

 中心選手になれなかった選手の中には不満をもつ者もいるが、そこで信頼関係がものをいい、とりあえずは監督のために協力する。はじめは不承不承でも、その方法で結果が伴えば、選手たちは本気でサポート役に徹するようになる。そして中心選手は本当の意味で核となり、ペケルマンが目指していたチームができ上がる。コロンビア代表の核は、もちろんFWのファルカオ。他の選手は、いかにして彼にいいボールを届けるかを最優先に考えてプレイしている。

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