2013.12.25

冬休みに読みたいすばらしき「スポーツ本」

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】歴代スポーツ本ベスト10(1)

 僕が10歳のとき、うちの一家はアメリカのカリフォルニアに1年間住むことになった。僕はそこで野球に出会った。父が野球をテーマにした文章を集めたアンソロジーを2冊買ってくれて、僕は隅から隅まで読んだ。その2冊は今も持っているけれど、ページを開くと80年代初めのスナック菓子のかけらがぼろぼろ落ちてくる。

 そのうちの1冊に、ボストン・レッドソックスの有名な選手テッド・ウィリアムズのことを書いた文章が収められていた。筆者はジョン・アップダイクという人だった。僕はアップダイクのことを知らなかったが、その文章はとても印象に残った。その後ヨーロッパで育つなかで、僕はスポーツについて書いたあれほどすばらしい文章に出会ったことはない。あのころヨーロッパの優れた書き手がスポーツを取り上げることは、ほとんどなかった。

今やスポーツ選手の自伝出版も花盛り。セルヒオ・ラモス(右、レアル・マドリード)の出版記念にかけつけたメスト・エジル、クリスティアーノ・ロナウドら(photo by GettyImages) 今は違う。その年の最も優れたスポーツ関連の本に与えられる「ウィリアム・ヒル・スポーツ・ブック・オブ・ザ・イヤー賞」も、2013年で25周年を迎えた。オックスフォード大学のボートのコーチだったダン・トポルスキーが1989年に『トゥルー・ブルー』という作品で第1回のウィリアム・ヒル賞を手にして以来、「スポーツ・ライティング」はイギリスで花開き、やがて大陸ヨーロッパに広がっていた。

 アメリカの作家は、その前からスポーツと真剣に向き合っていた。アーネスト・ヘミングウェイ、ノーマン・メイラー、ジャック・ケルアック、デイモン・ラニアン、リング・ラードナー……これらの作家は、みんなスポーツジャーナリストとして仕事をしたことがある。ヘミングウェイは闘牛についてスポーツ・イラストレイテッド誌に2000語の記事(それほど長くない)を書き、3万ドルの原稿料をもらった。フィリップ・ロスやバーナード・マラマッド、ドン・デリーロはスポーツを小説の舞台に据えた。リチャード・フォードはその名も『スポーツライター』という小説を書いた。