2013.12.26

各国でサッカーから優れた文学が生まれている

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】歴代スポーツ本ベスト10(2)

かつてのアーセナルの本拠地、ハイベリースタジアム。ニック・ホーンビィ『フィーバー・ピッチ』の舞台となった(photo by GettyImages) 91年、僕は自分の初めての本を出したくて、ロンドンの出版社をあちこち回っていた。その本で書きたかったのは、フットボールは世界にとってどういう意味を持っているかということだった。そんなことができたのも、「フットボールの本」という言い方はもうおかしなものではないと、『燃えつきるまで』(邦訳・図書出版社)の作者ピート・デイビスが教えてくれたからだ。

 僕の書棚にある『燃えつきるまで』は、そのころどこかの出版社にもらったもので、僕がやるべきことを教えてくれた。別の勇気ある出版社が、僕の本を出すという契約に応じてくれた。92年、僕はリュックサックにタイプライターを突っ込み、旅を始めた。

 ニック・ホーンビィの『フィーバー・ピッチ』(邦訳『ぼくのプレミア・ライフ』新潮文庫)が出版されたのは、ちょうどそのころだ。それまでにはなかった本だった。まずこの本は、フットボールファンの平凡な経験の意味に切り込んでいた。フットボールを通してある男性の人生に光を当てるだけでなく、60年代から90年代のイギリス社会を興味深く描いてもいた。

 この作品は、スポーツ専門書店の「スポーツ・ページズ」でファンジン(フットボールファンが作る雑誌)をじっくり読んだから書けたともいえる。「『本好きなフットボールファン』がいるなんて言っても、出版社は信じてくれなかっただろう」と、ホーンビィは後に書いている。「でも、そういうファンはカクストン・ウォーク(にあるスポーツ・ページズ)にたくさんいた。あそこに行けば、どういう人のために書けばいいかがわかった」