【イングランド】アーセナルはなぜ金を使わないのか (4ページ目)
エミレーツ・スタジアムは2006年にオープンし、おおむね成功を収めている。収容人員6万人のスタンドは毎試合ほぼ満員だ。これだけの数の観客がつねに集まるのは、ロンドンのフットボール史で初めてのことだ(アーセナルの前の本拠地ハイバリーの収容人員は3万8000人だった)。
アーセナルのチケットの価格はイングランドのクラブで最も高い。おそらくは世界で最も高いだろう。今シーズンのシーズンチケットは、最も安い席でも985ポンド(約14万5000円)だ。
その結果、アーセナルはホームゲームのたびに約330万ポンド(約4億8000万円)の収入をあげている。これは同じロンドンのライバル、トットナムの約2倍だ。アーセナルの昨シーズンの収入は2億4300万ポンド(現在のレートで約353億円)で、ヨーロッパで6位となっている。
それでもスタジアムの移転には不安が伴った。4億3000万ポンド(現在のレートで約625億円)の費用は、大半が借入金だった。イングランドで最も財布のひもの固いクラブが、気がつけば借金まみれになっていた。
2008年に世界金融危機が起こると、不安はさらにふくれ上がった。アーセナルはハイバリーの跡地に古いスタジアムの外観を生かしたマンションを建て、なんとか収入をあげていた。一方でエミレーツ・スタジアム建設の負債を払うため、ベンゲルは毎シーズン、選手を売らなくてはならなかった。
今にして思えば、ベンゲルが「倹約」を方針に掲げるのは予想できたことだ。メジャーリーグのオークランド・アスレチックスのGMで、映画化もされた『マネーボール』の主人公であるビリー・ビーンは、2年前に僕に言った。「ベンゲルを見ていると、(「投資の神様」の異名をとる)ウォーレン・バフェットを思い出す。ベンゲルのやり方は、まるでクラブをもう100年所有しようとしているみたいだ」
アーセナルの副会長だったデインはベンゲルより財政面で気前がよかったが、2007年に理事会内部の争いがもとでクラブを去った。以後、ベンゲルはさらに自分のやり方を押し通すようになった。自分の評価に見合う額をほんのわずかでも超える選手契約にはサインしないことも珍しくない。
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