2013.02.20

【イングランド】アーセナルはなぜ金を使わないのか

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

チャンピオンズリーグ、バイエルン戦を前にしたアーセナルのベンゲル監督(photo by Getty Images)【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】倹約家ベンゲル(前編)

「もっと金を使え! もっと金を使え!」。プレミアリーグで今ひとつ振るわないアーセナルのファンは、負け試合の後にそんなチャントを叫ぶようになった。

 この声がとくに大きく響いたのは、1月末に移籍市場が閉じる直前だ。チャントのメッセージは、今どきツイッターを通じて世界中に広がる。だが攻撃されている監督のアーセン・ベンゲルにしてみれば、過去に何度も耳にした議論だ。

 今63歳のベンゲルは1996年にアーセナルの監督となり、クラブにすばらしい8シーズンをもたらした。だがその後は、さほどすばらしくない8シーズンをもたらしている。アーセナルが最後にトロフィーを獲得したのは2005年で、今季のプレミアリーグでもこれを書いている時点で5位に甘んじている。

 このところベンゲルは、からかいの対象になってきた。多くのファンが不満に感じているのは、ベンゲルがチェルシーやマンチェスター・ユナイテッド、あるいはバルセロナに対抗できるような「高価」な選手を買うのを嫌っているようにみえることだ。

 おまけにアーセナルは、1億5360万ポンド(約223億円)をキャッシュで持っている。フットボールクラブでは聞いたことのないような額だ。コンサルティング会社のデロイトの推計によれば、プレミアリーグのクラブが昨年までにため込んだ負債は総計で24億ポンド(現在のレートで約3500億円)にのぼった。だからアーセナルは健全財政のお手本のようなクラブのはずなのに、ベンゲルは財布のひもを締めすぎていないかと批判されているのだ。

 ベンゲルとアーセナルは、今のフットボール経済が「バブル」でしかないと言うだろう。多くのクラブは身のほどをわきまえず、その体力を越える資金を使って危ない橋を渡っている、と。ここで問われているのは、フットボールビジネスのあるべき姿だ。フットボール界でほとんど唯一の経済の専門家であるベンゲルは、フットボール経済を正しくとらえているだろうか。アーセナルの倹約志向が実を結ぶ日は来るのだろうか?