【イングランド】なぜリバプールの成績はここまで悲惨なのか (4ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by GettyImages

 ヘンリーはリバプールを買収すると、コモリをフットボール・ディレクターに据えた。コモリは、野球界の「マネーボール」の元祖であるビリー・ビーンの友人であり、信奉者でもある。彼はオプタのようなシステムが提供するデータをまじめに分析し、一見まともに見える補強方針を立てた。データによれば、スチュワート・ダウニング(当時アストン・ビラ)と若いジョーダン・ヘンダーソン(当時サンダーランド)はリーグでも有数のパサーだった。ニューカッスルの若いFWアンディ・キャロルは、クロスを決めるのが最もうまかった。そこでコモリは、この3人をすべて獲得した。

 しかし残念ながら、サッカーにおける「マネーボール」はまだ始まったばかりだ。確かにコモリは、クロス中心の戦術をとるうえでは最高の選手を集めたかもしれない。問題は、フットボール界がデータを駆使するにつれ、クロスを放り込んでもゴールに結びつきにくいことがわかりはじめていたということだ。

 試合のデータを最もきちんと分析しているのは、たいていフットボールクラブではない。アマチュアだ。保険会社などでデータを扱う仕事をしている人や、博士課程に籍を置く大学院生などである。

 ある優れたブロガー(http://2plus2equals11.wordpress.com/about/)は、リバプールの昨シーズンの戦いぶりを見事に分析している。彼によれば、リバプールはリーグで最もクロスを多用していたが、「クロスを決めるシュートの成功率があまりに悲惨だった。昨シーズンのリバプールは、流れの中からのクロスで1点を決めるのに平均421本のクロスを必要とした。この数字はリーグで最悪だった」。

 クロスを放り込むことだけが勝利への道ではない。コモリは好ましくない戦術に賭けてしまった。セットプレイからクロスを入れるなら、まだわかる。クロスを蹴る選手に、精度の高いボールを入れる時間とスペースがあるためだ。しかしディフェンダーと競り合った末に正確なクロスを入れ、そのクロスがゴールにつながると期待するのは今や無謀といっていい。
(続く)

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