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【Jリーグ】移籍金の適正化が進むなか、いつか100億円の日本人フットボーラーは現れるか (3ページ目)

  • 舩木渉●取材・文 text by Wataru Funaki

【「適応リスクを排除していけば売れる」】

「たくさんの日本人選手がヨーロッパへ渡ったことによって、うまくいく例も、思い通りにいかない例も出てきたわけですが、その中で『適応リスクを丁寧に排除していければ売れる』ということがわかってきて、日本人選手たちの評価額は一時期に比べて上がりました。

 ドイツ国内でステップアップした町野修斗選手や堂安律選手が、よい例です。デンマークからドイツへ移籍した鈴木唯人選手も、適応の壁を乗り越えた実例と言えるでしょう。彼らが移籍するたびに、ものすごい金額が動いていて、その一部はかつて所属していたJクラブにも還元されているはずです。

 彼らのような『売れる』選手が増えたことで、ベルギーやポルトガルなどに存在する経営規模の小さいクラブでは、手を出せない日本人選手も増えていて、そこからステップアップを狙うケースは減っていると思います。

 むしろJ1で主力として活躍していれば、佐野海舟選手のようにJリーグからブンデスリーガへと適正額で引き抜かれるケースも増えるのではないでしょうか。クラブと伴走しながら適応の壁を乗り越えれば、ヨーロッパのトップレベルで十分に活躍できることを、彼は証明してくれました」

 かつてはヨーロッパの多くのクラブが、「日本人選手なら安く獲得できる」と考えていたかもしれない。しかし、全体的な評価の向上と獲得競争の活性化とともに、それが難しくなった。それでも適応リスクは見逃せないため、実力とポテンシャルを見極めようとする。そのうえで、次のクラブへ送り出す前提で算出した金額──当然、これまでよりは高額になる──を投資する流れ。現状はそう分析できるだろう。

 少しずつでも日本人選手の価格の適正化は進んでいる。あとは前編の冒頭で触れたフランコ・マスタントゥオーノ(レアル・マドリード)やエステバン(チェルシー)のように、欧州のビッグクラブに100億円以上の移籍金でも欲しいと思わせ、実際に即座に欧州のトップレベルで活躍できるタレントが出てくるか。この議論は、あるいはそこに尽きるのかもしれない。

 そうした未来は容易に想像できるものではないが、それでもJリーグは「確実にいいステップを踏めているのではないか」と小林氏は言う。

 Jリーグは2026年に大きな転換点を迎える。シーズン移行による影響は多岐にわたり、見通せない部分もまだ多くある。なかでもヨーロッパと同じカレンダーになることで人材の流動性は上がり、これまで以上に移籍マーケットでの動きが活発になるはずだ。

 ただ、日本人選手、特に若い選手が海外でのプレーを目指し、流出していく傾向は変わらないだろう。となると、依然として課題になっている適応リスクをいかに下げ、適正価格で、適切な移籍先を選べるかが重要になる。選手を送り出すクラブやJリーグは、いかに自分たちのブランド力を向上させ、人材輩出のサイクルを確立しながら、マーケットの流れに適応した"売り方"を見出していけるかが、持続的な成長のカギになるそうだ。

 いつの日か、Jリーグから"100億円のフットボーラー"が出てくるだろうか。可能性はゼロではない。そこに近づく取り組みを続けた先に、日本サッカーの歴史を変えるようなビッグディールが実現すればいい。

(了)

>>> 【前編へ戻る】Jリーグの日本人選手は、なぜ欧州のクラブに買い叩かれるのか? 実情を精査すれば...

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