町田ゼルビアの黒田剛監督に拍手を 問題はロングボールが通用するJリーグのレベルにある
連載第25回
杉山茂樹の「看過できない」
昨季J1に初昇格するや、シーズン当初から優勝争いを展開。3位でフィニッシュしたFC町田ゼルビアは、独得のサッカーを展開したチームでもあった。つまり、最も話題を振りまきながら3位という成績を残した。大相撲的に言えば、殊勲賞に値する。
犯した反則の数の多さはアビスパ福岡に次いで2位。ボール支配率の低さは福岡、ジュビロ磐田に次ぐ3位。プレーが流れている時間も、町田は京都サンガに次ぐ短さだった。よく言えば強度の高いダイナミックなサッカー。悪く言えば汚く荒っぽいサッカー。ロングボールの多いサッカーであり、ロングスローを多投することでも話題を集めた。
パスをつなぐサッカーではまったくない。「目に優しくないサッカー」。欧州ではそうした言い方をする。歴代の日本代表監督で最も近いのは、デュエルを連呼したヴァイッド・ハリルホジッチのサッカーだろう。縦に速いサッカー。よく言えばそうなるが、筆者を含め、それでは面白くないと、抵抗感を覚える人は多くいた。ハリルホジッチが解任された本当の理由は不明だが、スタイル的な問題も大きかったと思われる。
ピッチの選手に指示を送るFC町田ゼルビアの黒田剛監督 photo by Fujita Masato 記者会見で毎度「日本サッカーには強度が足りない」と、怒るように繰り返す姿にも辟易させられたが、自分のサッカー哲学をオープンに語るハリルホジッチは、その意味でイビチャ・オシム的だった。サッカーの志向は異なるが、サッカー監督らしい監督だった。自らの志向を積極的に語ろうとしない森保一監督とは対照的な関係にある。
町田の黒田剛監督は、プロ監督としては新人ながら、ご承知のとおり、それ以前は青森山田高の監督を務めていた。監督歴は30年。振る舞いは堂々としていた。自分のスタイルを語り、時にパスをつなぐサッカーに否定的な言葉も吐いている。
黒田監督率いる町田は、そうした意味で違和感の塊だった。敵役、悪役になるのは早かった。SNS全盛のこの時代である。ハリルホジッチが日本代表監督を務めたのは2015年から2018年にかけてだが、当時とは威力が違う。
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著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。