鹿島初の欧州出身選手・チャヴリッチはなぜ日本へ「確信があった。それはもはや愛」 (5ページ目)

  • 原田大輔●取材・文 text by Harada Daisuke

【プレッシャーを感じることがなくなったら引退】

── プレッシャーに打ち勝つ術(すべ)を身につけた、ということでしょうか?

「年齢が若いときには、プレッシャーとの向き合い方や扱い方がわからず、戸惑った時期もありました。試合が終わったあと、何度も、何度も、繰り返し映像を見て、自分のプレーを振り返り、この場面ではこうすべきだったのではないか、あの場面ではああすればよかったのではないかと、後悔し、考えたこともありました。

 でも、映像を見ても、過ぎたことは変えられないし、取り返すことはできない。ここ数年で、そうした気持ち的な切り替えがうまくできるようになり、徐々にプレッシャーとの向き合い方がうまくできるようになってきたと思います。今も、試合の映像は見返しますが、終わったことは終わったこととして受け入れたうえで、次に生かすために見ています。

 自分の年齢が若い時に、経験のある選手から『過去を振り返るのではなく、顔を上げて前を見ろ』と言われていたのですが、その意味や大切さがようやく理解できるようになってきたと思います。経験は決してお金で買えるものではないので、自分がここまで経験してきたすべてが実となり、プレッシャーに向き合える自分になれたように思います」

── Jリーグ開幕戦では自分で自分にプレッシャーをかけていたと話していましたが、過去の話を聞くと、なおさらメンタル面の成長を知ることができます。

「たしかにそのとおりですね。今季の開幕戦は、今まで自分が経験してきた試合とは大きく状況が異なっていました。

 アントラーズにとって自分が初のヨーロッパ出身選手であるということ、自分にとって8年間プレーしたクラブを離れて迎える初めての公式戦だったということ。特別な心境で迎えただけに、自分で自分にかけたプレッシャーに打ち勝ち、結果を残せたことはうれしく、安堵しました。

 ただし、開幕戦で結果を残したことに満足することなく、その後も結果を残し続けていかなければならいというプレッシャーに、シーズンを通して向き合っていかなければならないと考えています。でも、そうしたプレッシャーを感じることがなくなってしまったら、自分の成長はなく、その時はきっと、サッカー選手を引退する時なのではないかと思います」

(後編につづく)

◆チャヴリッチ・後編>>ゴールの秘訣は「欲張りすぎると、大事なことを見落とす」


【profile】
アレクサンダル・チャヴリッチ
1994年5月18日生まれ、クロアチア出身。セルビアのFKバナト・ズレニャニンでプロデビューし、OFKベオグラードを経てベルギーのゲンクに移籍。2016年からスロバキアのSKスロヴァン・ブラチスラヴァで計45得点を記録したのち、2024年1月にレンタル移籍で鹿島アントラーズ入り。ユース時代はセルビア代表としてプレー。2024年3月にスロバキア代表に招集されるも自身の都合により辞退している。ポジション=FW。身長186cm、体重82kg。

プロフィール

  • 原田大輔

    原田大輔 (はらだ・だいすけ)

    スポーツライター。1977年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めたのち独立。Jリーグを中心に取材し、各クラブのオフィシャルメディアにも寄稿している。主な著書に『愛されて、勝つ 川崎フロンターレ「365日まちクラブ」の作り方』(小学館クリエイティブ)など。

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