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敗れても光っていた新潟の伊藤涼太郎 非凡な「独特なリズム」を武器にゴールを量産する (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●撮影 photo by Fujita Masato

【「怖さ」を磨いて世界へ】

 変身を遂げた理由は、J2で試合出場を重ねたこともあるが、ボールプレーができる構造のチームに巡り合ったのも大きいのではないか。

 その点、伊藤が完成するのはこれからだ。

 FC東京戦では、J1で定位置をつかみきれなかった残像もあった。中盤に下がって攻撃に転じることであっさりパスをカットされる。あるいは、松木玖生のようにパワーのある選手と球際を競うと分が悪くなる。

 相手の先制点のシーンも、バックラインの前にうまく入ってボールを受け、ためを作ってパスを出したが、呆気なくカットされ、そこからのカウンターでゴールを奪われていた。チームによって、この類のミスは「失敗」と糾弾される。

 伊藤はアタッカーとして「数字」にこだわることが必要だろう。FKも含め、ゴールに関わる仕事ができるのは非凡な才能である。バックラインの前で勝負を続けることで「怖さ」は磨かれる。そこを極められたら、マイナス面は隠れていって、やがて「世界」も見えてくる。

「際のところで、J1はレベルが高いです。東京の選手も球際が強く、中央の(守りの)強度もあった。でも、自分たちは土台があるし、それをやり続けるしかない。あそこでパスを通したらチャンスだった、というのはあって、そこを突き詰めるしかないと思っています」

 伊藤はそう言って前を向いた。自らに言い聞かせるようでもあった。仕組みのなかでお互いが高め合い、心地よくボールを走らせることができたら――。シーズンの終わりには、伊藤自身の道も広がっているはずだ。

著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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