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川崎フロンターレの逆転劇を生んだのはPK判定のせいだけではない。背景に左SB佐々木旭の投入 (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 佐野美樹●撮影 photo by Sano Miki

【新しいタイプの右利き左SB】

 橘田のような中盤的なセンスと、サイドアタッカーに不可欠な推進力をバランスよく兼ね備えた右利きの左SBだ。中盤選手とパスを交換しながらジワジワと攻め上がっていくこともできれば、サイドアタッカーらしい直線的な攻め上がりもできる。少なくとも現在、国内でプレーする左SBの中では筆頭格に値する。

 昨季は不動の右SB山根が休んだ際、その代役としてもプレーしている。左右ともこなすことができるSBであり、山根や橘田のように守備的MF的なSBとしてもいけそうな多機能性を兼ね備える。

「サイドを制するものは試合を制す。SBが活躍したほうが勝つ」とは、欧州でよく耳にしたサッカーの解釈だが、佐々木が左SBに収まった途端、川崎のサッカーは実際、落ち着きを取り戻した。鹿島に対し優位性を発揮するようになった。サイドでの優位性がピッチ全体に波及したという感じだ。シミッチがピッチの中央付近で立て続けにボールを失いピンチを招くという佐々木が投入される直前の状況とは、まさに一変した。鹿島に先制点が生まれた原因と、同じ理屈であることは言うまでもない。

 左右をこなすSBだった元ドイツ代表フィリップ・ラームに、守備的MFの役割を与えたのはジョゼップ・グアルディオラだが、サッカーはその瞬間から少しばかり進歩した。サッカーの進化を考えた時、SBはまだ改善の余地があるポジションだと考えられる。新しいタイプのSBに属する右の山根に加え、さらに新しい雰囲気を漂わせる佐々木が左に収まれば、川崎のサッカーは進歩の可能性を残すことになる。

 後半44分まで開幕2連敗が濃厚だった川崎に一転、明るい光が差すことになった試合。15分にも及ぶアディショナルタイムの末、勝利した鹿島戦をひと言で言えばそうなる。佐々木の活躍とチームの成績は比例関係にある。この右利きの左SBを侮ることはできない。

著者プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

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