川崎フロンターレの逆転劇を生んだのはPK判定のせいだけではない。背景に左SB佐々木旭の投入
川崎フロンターレが鹿島アントラーズに逆転勝ちした試合。家長昭博の決勝点となるPKの判定にわかりにくさを覚える人は少なくないはずだ。釈然としない結末に、VARの使用に手を焼く審判団の実態が浮き彫りになった一戦と言える。だが、川崎にとってはラッキーな、鹿島にとってはアンラッキーなこの結果を、すべて判定のせいにするのもつまらない。
開始5分に先制し、いい感じで戦っていた鹿島の流れが途中から悪くなったのはなぜか。後半38分、川崎のCB山村和也にレッドカードが翳(かざ)され、鹿島の優位が鮮明になるなか、土壇場の後半44分に同点弾が、追加タイムに逆転のPKが生まれた。そうした展開に至った原因、背景は何だったのか。
川崎は開幕節の横浜F・マリノス戦でスタメンを飾った4バックのうち、ジェジエウ、車屋紳太郎(ともにCB)、佐々木旭(左SB)の3人を欠いていた。ジェジエウは前節の退場で出場停止。車屋と佐々木はケガになるが、ケガの程度が軽い佐々木は、この試合の後半11分、守備的MFジョアン・シミッチに代わって途中出場した。
それと同時に、開始時から左SB佐々木不在の穴を埋めていた橘田健人は、この戦術的交代で生じた玉突き移動でシミッチ(守備的MF)役に回った。筆者はこれが試合のターニングポイントだったと見る。
シミッチはその数分前から、ピッチの中央で幾度かボールを奪われる不安定な動きを見せていた。このままでは致命傷になりかねないと鬼木達監督は判断したのだろう。しかし、この交代は守備的MFのテコ入れのみならず、左SBの強化にもつながった。佐々木がそこに入ったことでチームはグッと締まった。
鹿島アントラーズ戦の後半11分から途中出場した佐々木旭(川崎フロンターレ)この記事に関連する写真を見る 立ち上がりに話を戻せば、左SB橘田はSBと呼ぶには高い位置を取っていた。守備的MFに近い位置に構える時間が多かった。
4バックのSBに中盤的な役割を与えようとするサッカーは、世界的にも広がりを見せる今日的な発想だ。横浜FMと戦った開幕戦では、左の佐々木ではなく、右SBの山根視来がその役割をこなしていた。右肩上がりの4バックだった初戦に対し、2戦目は左肩上がりを示した。
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著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。