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レノファ山口で現役引退、いきなり社長就任。J1で234試合出場の渡部博文が経営に興味を持つまで (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by YUTAKA/AFLO SPORT

【忘れられないイニエスタの言葉】

「プロ選手に目覚めたのは、栃木時代かもしれません」

 渡部は言う。

「レイソルは施設を含めて、何でも整っているじゃないですか? でも栃木では、練習場まで1時間かけてバスで通い、クラブハウスもなくて。公園や広場の水シャワーで体を洗っていました(笑)。部活の延長のようでしたが、ハングリー精神が養われたというか......。楽しさと危機感が同居したなんとも言えない日々でしたが、試合に出ることで自信がつきました。"もっとこうしたい"って意欲が出て、成長できたんです」

 渡部は逆境のなか、戦う術を身につけていった。おかげで、J1ベガルタ仙台ではセンターバックとして定位置を勝ち取っている。強力なアタッカーと対峙するたび、強さを増した。

 神戸では刺激的な日々を過ごしている。世界最強バルサを担ったアンドレス・イニエスタ、ダビド・ビジャ、トマス・フェルマーレンは「異次元」だった。

「ずっと考えてサッカーに取り組んできたんですが、『プレーを考えるな』とアンドレスは言いました。それは忘れられません。連敗から抜け出せなかった時、選手だけでミーティングをしたんですが、アンドレスは『真実はピッチの上だけにある』って。考えないでもできるほどのプレーの領域ってあるんだなって、思い知らされました」

 2020年のアジアチャンピオンズリーグ、フェルマーレンと交代で出場した水原三星戦だった。豪快なロングシュートを放ったり、派手なサイドチェンジを決めたりしたわけではない。しかし、自然にボールを運ぶプレーができて、プレスに対しても何の恐れも感じなかった。考えるよりも体が動き、無敵感を覚え、「アンドレスのマインドもこうなのか」と想像した。

 その境地にたどり着いたことで、2021年には移籍1年目の山口でシーズンチームベストプレーヤーに選ばれる活躍ができた。まだまだ成長のプロセスにあった。だが......。

「今年5月、遠くのものが二重に見える症状に悩むようになって。3,4年前から少し気になっていたんですが......」

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