柏レイソルの象徴・大谷秀和が語る現役時代とこれから。「『ひと筋20年』は自分だけで十分」

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Etsuo Hara/Getty Images

「やったことないので、不摂生をしてみようと思って。『朝マック』とラーメンっていうコースを考えたんですけど。まだやっていません」

 大谷秀和(38歳)はそう言って、白い歯を出して笑った。23歳で主将の腕章を巻いた硬骨の「キャプテン」だが、不摂生の定義がかわいらしい。そのギャップも彼の人間的魅力だろう。

 2022年11月、大谷は柏レイソルひと筋20年間の現役生活に別れを告げている。J1通算でクラブ歴代最多の384試合出場。J2やカップ戦を合計すると、出場数は600試合以上になる。アカデミー時代を含めると26年間を過ごし、もはやレジェンドというカタカナは生ぬるい。大谷はレイソルそのものだ。
 
2022シーズンをもって柏レイソルでの現役生活に別れを告げた大谷秀和2022シーズンをもって柏レイソルでの現役生活に別れを告げた大谷秀和この記事に関連する写真を見る 大谷はボランチとして、Jリーグ史上最高の選手のひとりと言えるだろう。その所以は、抜きん出た頭のよさにある。常に味方が有利に動けるように、敵を困らせる、駆け引きの天才だった。

「相手にとって嫌なことをしたい、とは思ってやってきました。たとえば相手がスライドしたところ、ここでもう一度、逆に動かせばだるいだろうな、面倒くさいだろうな、とか」

 大谷はその極意を語る。

「敵を誘導して誘って、こっちに(ボールが)来た、とかは楽しいですね。そういう駆け引きが一番、面白かったんでしょう。相手チームのキャプテンやエースの様子も観察していましたよ。手ごたえを感じながらやっているようなら、ここは割り切って守るとか、何かうまくいっていない、焦りがあるようなら、畳みかけるとか。選手同士の指示も注意して聞いていたし、ベンチに座る敵将の表情も読みながら......」

 彼は戦う前に勝っていた。準備の段階で、精神的に優位だった。相手の裏をかき、逆を取る。そのためにいいポジションを取れていたし、それは自分以上に、チームにアドバンテージをもたらした。彼自身は10点満点で7点でも、周りの選手を2割増しでよくする異能と言えばいいだろうか。結果、合計点ではひとりのスーパースターの点数をも凌駕した。

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