横浜F・マリノスの前田大然「自分はうまい選手じゃない」。驚異のスピードで走り続ける理由 (3ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by スポニチ/アフロ

 前田を応援してくれる人たちに恩返しをするには、活躍して、結果を出すことが一番だ。リーグ戦では現在、18点をとり(10月22日現在)、得点ランキングはトップ。第24節の大分トリニータ戦では、ハットトリックを決め、その後もコンスタントに得点を奪っている。

「自分としては、まだまだですね。たくさんチャンスがありましたし、もっといろんなパターンで点をとれるシーンがあったんですけど、そこで決められなかった。外したあとは、あまり考えないようにしていますけど、悪夢がよぎることがあるので、いかに最初のチャンスで決められるかですね。自分は、そこを大事にしています」

 自分がシュートを外しても誰かが点をとってチームが勝てば、気持ちはラクだが、自分が外して負けてしまうと、さすがに引きずることもある。

シーズンの序盤はセンターFWとしてゴールに近いところでプレーし、シュートチャンスは多かった。今は左サイドが主戦場となり、ゴールを狙いつつ、チャンスメイクの仕事もある。

「ゴールを狙うには遠いなというのは感じますけど、与えられた場所で結果を出すのがプロ。今は、自分がやりやすいようにやろうというのを意識しています。相手のマークもキツくなっていますけど、それはゴールをとっているからだと思っています。そのなかでどれくらいできるか。それが自分の試練であり、勝負だなと思っています」

 前田のよさは、スピードを活かした裏抜けのタイミングやゴール感覚だけではない。スプリントでのチェイシングやプレスバックも持ち味になっている。

「守備は、意識するというよりも当たり前ですね。『自分のよさって何?』と聞かれたらチームのために走ること、がむしゃらにやること。それをなくしたら自分は終わりやと思っています。自分はうまい選手じゃないので、常に一生懸命にやらないとうまい選手にかなわないですからね」

 自分のプレーヤーとして価値を過大評価せず、現実を見て、やれることを最大限にやる。簡単そうに見えて、なかなかできないことだ。

「自分は現実を見ています。それは昔からなんですよ。自分はバーンって一気に上にあがっていくのは無理なんです。ひとつひとつ、目の前のことをこなしていく。それができるのが強みだと思っています」

 スピードが特徴ゆえに、成長の段階もかけ足で上がっていくタイプかと思ったが、一歩ずつ前に進んでいく姿勢は、リアリストで慎重な前田らしい。成長のために欠かせないもののひとつが国際舞台での経験だろう。東京五輪ではU―24 日本代表として戦ったが、このあとの日本代表、そしてカタールW杯はどう考えているのだろうか。

「五輪もそうでしたが、W杯も出たいというよりも、ひとつひとつ成長していった過程にあるものだと思うんです。だから今は、代表は見ていないですね。F・マリノスの優勝しか見ていないですし、そのために結果を出すことしか考えていない。それができた先に代表やW杯が見えてくると思います」

 今は、F・マリノス優勝のために、ゴールを奪って勝たせることしか考えていない。前田らしい男気に満ちた言葉だ。このままゴールをコンスタントに決め続け、チームが勝ち続けていけば、最終節の川崎戦で何かが起こるかもしれない。

「僕が点をとって勝って、最終的に優勝するのが理想的ですね」

 優勝を決めるゴールパフォーマンスは、娘のためにアンパンマンシリーズになりそうだ。

FMヨコハマ『日立システムズエンジニアリングサービス LANDMARK SPORTS HEROES

毎週日曜日 15:30〜16:00

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強みは機動力と取材力。長年、野球、サッカー、バスケットボール、陸上、水泳、卓球など幅広く取材を続けてきた二人のノウハウと人脈を生かし、スポーツの本質に迫ります。
ケガや挫折、さまざまな苦難をものともせず挑戦を続け、夢を追い続けるスポーツヒーローの姿を通じて、リスナーの皆さんに元気と勇気をお届けします。

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