イニエスタのショータイムを勝利に結びつけるには、神戸に何が必要か

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 藤田真郷●写真 photo by Fujita Masato

 5月9日、横浜。5位のヴィッセル神戸は、4位の横浜F・マリノスの本拠地に乗り込んでいる。アジアチャンピオンズリーグ圏内入り(3位以内)を争う一戦だった。

 結果から言えば、神戸は一昨シーズン王者の横浜FMに2-0と力負けしている。チームとしての戦術的練度が違った。プレッシングひとつを取っても、その質で劣っていた。

「お互い、前線からプレスを仕掛け合う展開でしたが......チームとして、マリノスは誰かひとりがアクションを起こせば、全体が連動していました。どんなシチュエーションでも(各ラインが)同時に上下動していた」(神戸・山口蛍)

 試合後の質疑応答では、プレスに関するものが、他の監督や選手に対しても意外なほど多かった。では、勝負の決め手はプレスだったのか?

「うううー」

 記者席で、唸るような感嘆の声が重なり合って聞こえた。コロナ禍で声を出してはならない。口を閉じたまま、マスク越しに喉元から音が出ていた。

 ピッチ上では、名手アンドレス・イニエスタの"ショータイム"だった。

サンフレッチェ広島戦に続き、横浜F・マリノス戦も後半途中から出場したアンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸)サンフレッチェ広島戦に続き、横浜F・マリノス戦も後半途中から出場したアンドレス・イニエスタ(ヴィッセル神戸) イニエスタは長い故障からの復帰で、リーグ戦は今シーズン2試合目。後半14分からの出場だった。体調も試合勘も、万全とは程遠い。世界王者、欧州王者に輝いた全盛期と比べたら、50%にも届かないだろう。
 
 それでも、イニエスタは別格だった。アユブ・マシカのシュートはオフサイドとなったが、横浜FMの扇原貴宏を誘い込んで軽々と外すと、距離と時間を計ったように出したスルーパスは高度だった。その直後には右へのサイドチェンジをイメージさせながら、裏を突くように中央の古橋享梧にパスを打ち込み、チャンスメイク。たて続けに、一度フェイクを入れてから時間を作り、左サイドの酒井高徳を走らせ、再び好機を作った。たった5分間で、これだけのシーンを作り出した。

 イニエスタは、適切なプレーを選択することができる。局面によって判断を変えられるために、呆気ないほどに逆を取れる。猛った闘牛をマントでひらりとかわす要領と言えばいいだろうか。

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