「アントラーズの嫌われ役になる」本田泰人はキャプテン就任で決めた (3ページ目)

  • 寺野典子●文 text by Terano Noriko 井坂英樹●写真 photo by Isaka Hideki

「はい。だから、俺に誰も近づいてこなくなったこともありました。寮の風呂場へ入っていくと、先に入っていたチームメイトがサァ~とその場からいなくなる。僕がいるとわかると、開けた戸を閉めるみたいな(笑)」

――寂しい......。

「寂しさというか、仕方がないなと。だって本当に厳しかったから(笑)。でも、中には『食事行きましょうよ』と言って寄ってくる後輩もいて。かわいいなと思いましたよ」

――若い選手は『レギュラーを獲りたい』という意欲にあふれているけそ、それをどう表現するかが難しい。

「貪欲さや向上心は大切なものです。でも、そういう自己主張がチームのためにならないこともある。だから、『その闘争心は紅白戦で表現する』という空気がだんだん生まれてきました。小笠原(満男)たちが加入した時代の紅白戦は、真剣勝負のように白熱していました。それがトップチームの僕たちにも刺激になりましたね」

――以前、本田さんがチームの流れが悪ければ、ファールで流れを切ることも必要と話していたことがあります。時間の使い方がうまいのもアントラーズのしぶとさに繋がっていました。

「戦況を見ながら、今チームにとって、どんなプレーを選択すべきかということです。たとえば、アントラーズのフォワードは、『ゴールだけが仕事じゃない』というふうに育てられる。それはジーコの教えでもありますが、ジーコはシュートから逃げろと言っているわけじゃないんです。自分の状況が悪いのにもかかわらず、シュートを打つのはチームのためにはならないだろうということ。

 確かにフォワードはゴールを決めることを求められるポジションかもしれませんが、味方にゴールを獲らせる仕事もできるし、守備においても重要な役割を担っている。チームの一員として、やるべきことを見極める。それは厳しく言いましたね」

――大変だった時期というのは?

「時期というか、『チームのことを考えろ』と言っても、若い選手にとっては難しいことも多いんですよ。チームのことを考えたプレーや行動......それは本当に細かいことだったりしますから。たとえば、試合中にミスをするチームメイトに『何やってんだよ!』と叱責した選手がいる。そうすると僕は怒るわけです。『そんな言い方はないだろう?』って。『自分がそう言われたら、どう感じるのかを考えろ』と。そこは『集中しろよ』でいいんですよ」

――文句を言うのと、要求は違う。

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