「サッカー用語」の歴史を半世紀以上サッカーに関わってきたベテランライターが振り返る
連載第90回
サッカー観戦7700試合超! 後藤健生の「来た、観た、蹴った」
現場観戦7700試合を達成したベテランサッカージャーナリストの後藤健生氏が、豊富な取材経験からサッカーの歴史、文化、エピソードを綴ります。
今回は「サッカー用語」の歴史について。後藤氏が半世紀以上サッカーに関わってきたなかで、消えていった言葉、新しく生まれた言葉、ポジション名の変遷などを振り返ります。
その昔、最後尾の3人の真ん中はセンターハーフ(CH)と呼ばれていた(写真は日本代表で同ポジションの谷口彰悟) photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る
【新しいプレーと新しい言葉の関係】
何十年もサッカーに関わっていると、たくさんの新しいサッカー用語と出会い、そして使われなくもなっていく。
たとえば、最近のサッカーの実況を見ていると「インナーラップ」とか「アンダーラップ」という言葉が頻繁に使われる。サイドバック(SB)がタッチライン沿いに攻撃参加してくる「オーバーラップ」に対して、中のレーンを使うプレーを指した言葉のようだ。
これはわかりやすい。
なにしろ、昔はそんなプレー自体がなかったのだから"新語"が生まれるのは当然のことだ。
僕が最初にサッカーに出会った半世紀前、DFはあくまで守備の専門家であって、攻撃参加ということ自体が珍しかった。
もちろん、攻撃参加で有名な選手はいた。インテルやイタリア代表として数多くのゴールを決めたSBのジャチント・ファッケッティとか、パルメイラスおよびブラジル代表のジャウマ・サントスだ。
だが、彼らは特別な存在=天才だった(だからこそ、世界中にその名が轟いていた)。普通のSBがそんな真似をしたら、監督は怒り出したに違いない。
その後、1990年代頃になるとオーバーラップが当たり前になってきたが、それでも許されていたのはタッチライン沿いに攻め上がっていってクロスを入れることだけ。クロスを上げたあとは、すぐに持ち場に戻らなくてはいけなかった。
SBがボランチの位置に入ったり、相手ペナルティエリア付近まで上がったり、ボックス内でポケットを取るようなプレーが頻繁に見られるようになったのは、つい最近のことだ。だが、今では中学生の女子選手でも普通にそんなプレーをしている。
新しいプレーが生まれたから新しい言葉ができたのであり、そして新しい言葉ができたことによってそういうプレーが一般に普及していった......。
著者プロフィール
後藤健生 (ごとう・たけお)
1952年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。1964年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、1974年西ドイツW杯以来ワールドカップはすべて現地観戦。カタール大会では29試合を観戦した。2025年、生涯観戦試合数は7700試合を超えた。主な著書に『日本サッカー史――日本代表の90年』(2007年、双葉社)、『国立競技場の100年――明治神宮外苑から見る日本の近代スポーツ』(2013年、ミネルヴァ書房)、『森保ジャパン 世界で勝つための条件―日本代表監督論』(2019年、NHK出版新書)など。




















