「禁断の移籍」組が熱戦を点火。5万人を黙らせた、さいたまダービー

  • 原山裕平●取材・文 text by Harayama Yuhei
  • 山添敏央●撮影 photo by Yamazoe Toshio

 そのとき、スタンドのオレンジ色の一角から、大きなブーイングが響き渡った。57分、浦和レッズの交代を告げるボードに掲示されたのは、「16」と「21」の数字――。ともにかつて大宮アルディージャでプレーした、MF青木拓矢とFWズラタンの番号である。

試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、選手は次々とピッチに倒れ込んだ試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、選手は次々とピッチに倒れ込んだ まるで大宮サポーターを挑発するかのようなペトロヴィッチ監督の采配は、しかし少し退屈だったダービーマッチの潮目を変える重要な一手となったのは間違いなかった。

「ダービー」と謳(うた)われる試合は日本全国数あれど、現在のJ1で同じ街をホームタウンとするチーム同士が相まみえるのは、この「さいたまダービー」しかない。ともに2ndステージに入り、好調を維持していることもあっただろう。この日、埼玉スタジアム2002には5万3951人の大観衆が詰めかけていた。

  広島ほどではないにせよ、浦和には大宮との間に移籍にまつわる因縁がある。青木とズラタンが「禁断の移籍」の象徴で、さらには、この日は出場機会のなかったFW石原直樹も、広島を経由する前は大宮に所属していた。一方で大宮の守護神であるGK加藤順大は、2014年まで浦和でプレー。もっとも主力級を引き抜いた浦和とは異なり、加藤の場合は西川周作の加入により押し出されたかっこうである。にもかかわらず、ゴールキックのたびに浦和サポーターからけたたましいブーイングを浴びせられてしまうのだから、加藤に対して同情せずにはいられなかった。

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