【高校サッカー選手権】
富山第一、初V! 奇跡の逆転劇はなぜ起きたのか (3ページ目)
キッカーは、大塚監督の息子で、主将の大塚翔。決めれば同点で延長戦に向かえるが、外せば敗戦となる。大塚翔の頭によぎったのは、1年生のときの苦い思い出。ある大会でPKを外し、試合後に「父親が監督だから、試合に出ているんだろ!」とインターネット上で誹謗中傷されたことだった。
父である大塚監督も、同じことが頭に浮かんだ。ゆえに、PKの際には地面に膝をついて、手を合わせて祈っていた。
「父親が監督ということで叩かれて、かわいそうな思いをさせてしまった。その悔しい思いがこのPKで報われてほしい」――。
息詰まる瞬間、3年生になった息子は確実に成長していた。父の願いに応えるように、大塚翔は過去の“悪夢”にも怯(ひる)まず、渾身の力で右足を振り抜いた。そしてボールは、今大会ナンバー1とも言える星稜GK近藤大河の逆をついて、左サイドネットを揺らした。地鳴りのような歓声とともに、90分間終了のホイッスルが鳴った。
2-2。最後の最後で追いついた富山第一の勢いは延長戦でも止まらなかった。星稜の反撃を抑えて、延長後半9分に途中出場の村井がファインゴール。0-2からの逆転劇を締めくくった。
試合後、富山第一の大塚監督は「うちは寮を持たない。富山の選手たちばかりでここまで来た」と話すなど、地元出身の選手だけでもしっかりとしたスキルとメンタルを持つ選手が育てられることを繰り返し強調していた。両校の監督や選手たちは、試合前から「北陸対決」をあおられて、“北陸”を強く意識させられたが、その思いが強かったのは、富山第一のほうだったのかもしれない。そんな“北陸魂”が奇跡をもたらした。
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