【フットサル】W杯8強入りならずも、受け継がれた『キング・カズ』の魂 (2ページ目)

  • 北 健一郎●文 text by Kita Kenichiro
  • 高橋 学●撮影 photo by Takahashi Manabu

 それでもウクライナ戦では、4試合を通じて最多の10分以上の出場時間を記録した。逸見勝利ラファエルが出場停止で、高橋健介が怪我で離脱。もともとメンバーが少ない中で貴重な戦力だった稲葉洸太郎までも前半で1発退場を食らい、FP(フィールドプレイヤー)が8人になってしまったこともあって、後半のパワープレイの時間帯にもピッチに送り込まれた。

 日本がパワープレイを実践する際、カズがピッチに立つのは初めてのことだった。パワープレイではGKをFPに代えて、5人が攻撃に参加するため、ひとつのミスが失点に直結する。高度な戦術でもあり、フットサルを本格的にプレイし始めて1カ月あまりのカズを入れるのは、通常では考えられないことだった。

 しかし、ミゲル・ロドリゴ監督はリスクを加味したうえで、カズのピッチ上での責任感にかけた。与えられた役割は得点源の森岡薫をベンチで休ませている間、主にディフェンスで走り回るという地味なもの。カズは不慣れなシチュエーションに戸惑いながらも、相手の決定的なシュートをゴールライン上まで戻って、身体を張ってブロックするなど、精一杯の仕事を果たした。

 そんなカズの姿を見て、他の選手が何も感じないわけがない。0-6という絶望的な状況から、反撃の口火を切ったのはカズと入れ替わった森岡だった。後半10分に木暮賢一郎のシュート性のボールを胸で押し込むと、11分には右サイドで反転してから右足を振り抜き、2点目を挙げた。さらに12分には、素早いパス交換から北原亘が決めて3点差まで詰め寄った。結果的に勝つことはできなかったが、後半の日本代表のプレイは、カズが常に話していた「日の丸を背負うことの重み」を感じさせるものだった。

 8強入りは果たせなかったものの、W杯でベスト16に入ったことは、日本フットサル界にとって大きな一歩と言っていい。さらに、カズが入ったことで大きな注目を集めた中で結果を出したことにも価値がある。問題は、これを、この先にどうつなげていくか、だろう。試合後のミックスゾーンで、カズが最も時間を割いて語ったことも、そのことだった。

「行き帰りのバスの中とか、食事のときとか、木暮や小宮山(友祐)とかとは、『どうしたらフットサル界が良くなるのか?』という話をずっとしていました。例えば、来年はアジア選手権もないので、代表戦は5月に親善試合があるだけらしいんですが、それでは遅いし、物足りない。まずは、この熱があるうちに国内で試合を見せることが必要だと思います。サッカーのA代表だったら、6月にW杯が終わって、8月には新しい監督で、次に向かって動き出すわけですから。あとは、Jリーグとのつながりを持てるチームがもっとあってもいいのではないかと思います。南米では、サンパウロFCやコリンチャンスなどはフットサルチームを持っています。そういうのがあれば、同じチームで、同じユニホームで、同じサポーターが応援に来てくれるようになるかもしれない。今は同じ地域にあっても、あまり連携がないみたいですから、Jリーグとフットサルの共通のチケットを作るとかがあってもいい。そういういろいろなアイデアを、みんないつも話していたので、それをいくつか実現できればいいな、と思っています」

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