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【高校選手権】市立船橋の優勝が高校サッカー界に突きつけた「命題」 (3ページ目)

  • 浅田真樹●文 text by Asada Masaki
  • 末吉雅子●撮影 photo by Sueyoshi Masako

 狙い通りの逆転勝ち。朝岡監督は、そんな戦い方を「市船の伝統」と表現する。

「私にとって、桐蔭学園(のパスサッカー)が理想。でも、急に何かを変えることは難しい。昔からあるものをベースにしなくてはいけない。市船にはそういう(手堅く戦う)文化があった」

 逆転優勝の立役者となったFW和泉もまた、「伝統」を感じたひとりだった。

「小さいころ高校サッカーを見ていて、市船には守備が堅くてセットプレイで点が取れる、というイメージがあった。昔の市船らしさを出せたと思う」

 昨今、バルセロナの影響からか、高校サッカー界でも「パスサッカー信仰」は強い。ショートパス主体のサッカーを志向することは、決して悪いことではないが、そのことが「脇の甘さ」を容認する結果になっている点も否めない。敗れた、四中工・樋口士郎監督の言葉が印象的だ。

「クラブW杯決勝を見ていて、確かにバルサのパス回しはすごかったが、ブラジルのトップチーム(サントス)がパスを3本、4本と通せないことが、私にとっては衝撃的だった。バルサのすごいところは、あのプレッシングができること。そこに目を向けないといけない。ハードワークをベースにした高い守備意識を持ってパスワークを志向することが、高校サッカーでも大事なことだと思う」

 率直に言って、市船のサッカーは面白いものではなかった。だからといって、決して技術的に劣るチームだったわけではない。むしろ、四中工以上にテクニックに優れた選手は多かったのだ。

 しかし、そこにおぼれることなく、手堅すぎるほど手堅く戦った。「古き良き高校サッカー」全盛の時代を知る伝統校が勝ちに徹し、9年ぶりの王者に返り咲いたことは示唆(しさ)に富む。

 フィジカル重視の国見や鹿児島実をアンチテーゼとして、テクニック重視の野洲が頂点に立ち、はや6年が経過した。この市船の優勝が、近年の高校選手権の流れに一石を投じるとともに、高校サッカー界全体にもう一段のレベルアップをうながすものになることを望みたい。

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