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サッカー日本代表にまさかの「歴史的敗北」 ブラジルに「ミスの連鎖」はなぜ起きたのか (3ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki

 ただ、アンチェロッティはいわゆる戦術家ではない。日本戦のようなケースは起こり得ることだった。

 レアル・マドリードで数々のタイトルに浴した時代も、「戦術がないのが戦術」と言われるほどだった。イタリア特有の守りの堅牢さを高めながら、攻めは選手たちの実力を見抜き、信じ、自由度の高い戦いを信奉し、その撓(たわ)みが変幻自在の動きを実現し、ユルゲン・クロップやジョゼップ・グアルディオラといった稀代の戦術家のチームを破った。一方で、再現性のある戦術ではないため、格下に呆気なく負けることもあったのである。

 アンチェロッティはあくまで戦略家であり、独自の戦術を駆使するタイプではない。天才的センスで戦況を見抜くのには長けるが、戦術的アプローチで修正し、改善するタイプではないだろう。結果、この日のように"彼のチームでプレーするのに値しない選手"がピッチに立ってコントロールを失った時、チームが戻るべきバランスもなく、混乱のなかで失点を繰り返した。

「今、敗れて学んだほうがワールドカップで経験するよりマシだ」

 アンチェロッティは言った。強がるしかないだろう。彼は勝ち続けてきた名将なのだ。

著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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