FIFAワールドカップが巨大化する歴史 入場者数が大きく伸びたのは31年前のアメリカ大会だった (3ページ目)
【入場券の販売方法が変わった】
それでも、入場券は売れた。
入場券の販売方法も前回までとは異なっていた。
イタリア大会で公式記録の観客数と実際の入場者数の間に大きな開きがあったのは、発表されたのが入場券の販売枚数だったからだ。つまり、入場券は買ったのにスタジアムに来なかった(他の会場に行った)人がたくさんいたのだ。
なぜかというと、1986年と1990年の2回のW杯では入場券は抱き合わせ販売だったのだ。
たとえば、ミラノでラウンド16(グループリーグの結果、西ドイツ対オランダという好カードになった)を見たいと思ったら、開幕戦(アルゼンチン対カメルーン)からグループリーグ、準々決勝までの6試合分をまとめて購入しないといけなかった。
グループリーグでブラジルの試合を見たかったら、トリノのスタディオ・デッレ・アルピでの5試合分の一括購入が必要だった。
だから、当然、入場券を買っても見に来ない(同日に他の会場での好カードを見に行く)人が大勢いたのだ。
だが、アメリカ大会からは試合別で入場券を買えるようになったので(怪しげな代理店が関与したり、横流しが横行したりはしたが)「入場券は売れているのに空席だらけ」ということはなくなった。そして、サッカーに詳しくはないアメリカ人も「何か大きな大会らしい」というのでスタジアムにやって来た。
そして、さらに各国の代表のサポーターも大量にやって来るようになった。
それまではW杯で代表を応援するためにやって来るのは、よほどの熱狂的なサポーターだけだった。なかには仕事を辞め、家屋敷を売り払ってやって来る人もいた。だが、当然、数は多くなかった。
だが、1990年代になるとワイドボディ機の登場で航空券が安くなり、一般の人も格安航空券というものを簡単に利用できるようになった。そのため、各国から応援に来る人が急増した。
1994年大会の入場者数は358万人に達した。そして、1998年のフランス大会から参加国数が32カ国に、試合数が64に増えたこともあって、21世紀に入るとW杯の観客動員数は300万人から340万人程度で推移していた。
また、最近は入場券もインターネットを通じて希望する試合だけ買うことができるようになり、公式、非公式のリセールもできるようになったので、購入者の多くが実際に足を運ぶようになった。
そして、2度目のアメリカ開催となる2026年大会では試合数が100を超え、再び巨大なスタジアムが使用されるので観客数は600万人を超えることになるだろう。そして、FIFAは巨大な収入を確保し、ジャンニ・インファンティーノ会長の権力の座は安泰となる。
そんな水増し感満載の大会が面白いかはまったく別問題なのだが......。
著者プロフィール
後藤健生 (ごとう・たけお)
1952年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。1964年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、1974年西ドイツW杯以来ワールドカップはすべて現地観戦。カタール大会では29試合を観戦した。2025年、生涯観戦試合数は7500試合を超えた。主な著書に『日本サッカー史――日本代表の90年』(2007年、双葉社)、『国立競技場の100年――明治神宮外苑から見る日本の近代スポーツ』(2013年、ミネルヴァ書房)、『森保ジャパン 世界で勝つための条件―日本代表監督論』(2019年、NHK出版新書)など。
【画像】サッカー日本代表2026年ワールドカップのメンバー予想(フォーメーション)
3 / 3