「変化は必要」女子W杯得点王の宮澤ひなた 紆余曲折を経てつかんだ栄光と世界への扉 (3ページ目)
――マークが厳しくなれば「簡単には決められないだろうな」と思いながら見ていましたが、それでもゴールを決めてしまう。あの時は"持ってる人"特有の空気感をまとっていました。
宮澤 たまたまなんですけど(笑)。でも若干、試合のなかでこういう流れになった――あとは「ひなた、イケぇ~!」みたいなところはありましたよね。
――ワールドカップ後には、イングランドのマンチェスター・ユナイテッドに移籍。ピッチに立つと、得点王であることを意識することがあったりしたのでしょうか。
宮澤 自分がそれを気にする瞬間っていうのはあまりなくて、周りから「得点王、すごいですね」って声をかけていただいたりすると、思い出させてもらう感じです(笑)。正直「得点王を獲りたい!」という思いは、自分のなかではそこまでなかったですから。ワールドカップを本当に楽しみたかったなかで、結果的に得点王になったというか。
だいたい、最終的な結果はわからないまま帰国して、(得点王という)実感がないままマンチェスターに行ったので。それでもひとつ確実なのは、あの得点王がなかったら、今この場にはいなかっただろうな、というのはあります。
とにかく、マンチェスターには「得点王だ!」って、自信満々で行ったわけではなかったので、新しい環境に馴染むまでは必死でした。世界中からいろんな選手が集まっているなかで、「試合に出ないといけない」という気持ちのほうが強かったですね。
ただそうは言っても......自分が思っている以上に、"得点王"という肩書が頭の片隅にずっとあるというか。意識していないようで、意識してしまっていたのかもしれません。
――それが、プレッシャーに感じたことがありますか。
宮澤 マンチェスターに加入して、実際に入るポジションはボランチで。でも「得点王なら、決めるでしょ」と思われていたりして......。もちろん、そういった期待はうれしいですし、貪欲にやっていかないといけないなと思うんですが、反面、自分のなかでは葛藤が少しありました。「それなら、もっと前でプレーしたいな」とか......。ケガもあって、プレッシャーを感じていないようでいて、感じてしまっていたんでしょうね(苦笑)。
それで「点を決めなきゃいけない」と、決めると思っている周囲のムードに引っ張られてしまう時もありましたけど、それは自分のなかで割りきることができればいいこと。それも含めて、サッカーだから。
――宮澤選手に対しては、ボランチであっても「得点王なんだから、グイグイ行くんでしょ」といった空気感が、チーム内にも、スタジアム内にもあったのでしょうね。
宮澤 それ! でも(自分は)もともとグイグイ行くタイプではないんですよ(苦笑)。けど、それはすごく名誉なことで「もっと成長しなきゃ」と思わせてもらえるので、どのポジションであっても点を決められる選手になりたいし、「(宮澤はチームに)いないとダメだよね」って思わせる選手になりたいです。
宮澤ひなた(みやざわ・ひなた)
1999年11月28日生まれ。神奈川県出身。スピードとテクニックを秘めたMF。星槎国際高湘南のエースとして奮闘。その間、世代別の代表でも力を発揮して、卒業後は日テレ・ベレーザ入り。ただ、ベレーザでは思うような働きができず、2021年にマイナビ仙台レディースに完全移籍。再び存在感を示すと、なでしこジャパンにも復帰。2023年女子ワールドカップでは得点王に輝くほどの目覚ましいプレーぶりで、チームの勝利に貢献した。ワールドカップ後にイングランドの強豪、マンチェスター・ユナイテッドに移籍。パリ五輪でもその活躍が期待される。身長160cm。
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