【谷口彰悟・新連載】日本代表でベンチ続きの日々に何を考えていたか カタールW杯運命のスペイン戦は「絶対にやれると思っていた」 (3ページ目)
自分は練習の時から、チームメイトの表情や言動、さらには姿勢を比較的汲み取ろうとする性格だったこともあり、その選手がどういう精神状態で今、取り組んでいるのか、臨んでいるのかを感じ取っていたことも大きかったように思う。
だから、この選手は頑張っているからチャンスが来るかもしれないなと思っていると、実際に監督が試合に臨むメンバーに選ぶことも多く、監督が一人ひとりのことをよく見ていることもわかった。特に、多くの時間をともに過ごした鬼木達監督は、選手の小さな変化に気づく人だっただけに、自分自身も鬼木監督の思考や視点には影響を受けていた。
なにより、少しでも準備を怠れば、それは自分自身に返ってくる。
だから、第2戦のコスタリカ戦で出場機会を得られなかった時に、自分自身がそこであきらめてしまっていたら、第3戦のスペイン戦で先発出場することがわかった時も、きっと動揺していただろうし、不安になっていたことだろう。
最後の瞬間まで、ベストを尽くすではなく、貫く──。それは決して、当たり前のことで、当たり前ではないことは、自分自身も苦しく、つらかったからよくわかっている。
「何のために、この数年間を費やしてきたのか」
そう思えば、それまでの試合に出られずとも、踏ん張ることはできたし、悔しい反面で素直にチームメイトの勝利を信じることができた。だから、もちろん緊張はしたけれども、この舞台を、この機会を楽しもうと思って、スペイン戦のピッチに立つことができた。
カタール・ワールドカップの舞台で対戦したスペインもクロアチアも強かったし、うまかった。同時に試合をしながら、ワールドカップを知っている国であり、多くの修羅場をくぐってきたチームでもあることを感じていた。
そこに、日本と世界の差もあるように思った。一人ひとりの技術の高さ、個人戦術の理解度、かつ強度というものを当たり前のように備えていた。ワールドカップで上位に進出するチームであればあるほど、そうした礎(いしずえ)はしっかりしていると感じたように、技術、強度、戦術、経験、そして自信といった細かいことの差で勝敗が決まることを改めて実感した。
夢にまで見ていたワールドカップを経験して、海外でプレーしたいという思いは、さらに加速したけど、大会に臨む前から、日本を飛び出そうという考えは決まっていた。
◆第4回につづく>>
【profile】
谷口彰悟(たにぐち・しょうご)
1991年7月15日生まれ、熊本県熊本市出身。大津高→筑波大を経て2014年に川崎フロンターレに正式入団。高い守備能力でスタメンを奪取し、4度のリーグ優勝に貢献する。Jリーグベストイレブンにも4度選出。2015年6月のイラク戦で日本代表デビュー。カタールW杯スペイン戦では日本代表選手・最年長31歳139日でW杯初出場を果たす。2022年末、カタールのアル・ラーヤンに完全移籍。ポジション=DF。身長183cm、体重75kg。
著者プロフィール
原田大輔 (はらだ・だいすけ)
スポーツライター。1977年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌『ワールドサッカーグラフィック』の編集長を務めたのち独立。Jリーグを中心に取材し、各クラブのオフィシャルメディアにも寄稿している。主な著書に『愛されて、勝つ 川崎フロンターレ「365日まちクラブ」の作り方』(小学館クリエイティブ)など。
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