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サッカー日本代表の毎度もめる1トップ論争に鄭大世が見解 「理想はスピードのある大迫勇也。ただ、そんな選手はここ10年出ていない」 (2ページ目)

  • 篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko
  • 藤田真郷●撮影 photo by Fujita Masato

【浅野拓磨、前田大然のチョイスは「裏を取れる」から】

 なぜセルティックの前田大然選手や、ボーフムの浅野拓磨選手が重宝されるのか。そして大迫勇也選手(ヴィッセル神戸)がカタールW杯のメンバーに最後残れなかったところに、森保監督の心情が表れていると思います。

 大迫選手は、僕とは能力が違うけれど、かぶるところもあるんですよね。それはボールを収めることは得意だけど、守備ラインの裏を取って相手のラインを押し下げるのはあまり得意ではないということです。

 この "裏を取れる"のは、現代のサッカーにおいて大事なファクターになっています。守備で頑張れて裏も取れる。その点で選ばれているのが、前田選手であり、浅野選手というわけです。

 カタールW杯のドイツ戦やスペイン戦のように、チーム全体が押し込まれる展開でも、1本のパスで相手守備ラインの裏にある広大なスペースを取りにいける。それによって相手を押し込んで、こちらのラインも一気に押し上げられれば、チームとして楽なんですよね。

 ただそれは、言うは易く行なうは難し。守備で左右に振られ続けて、そこからボールを奪った瞬間にスプリントで守備ラインの裏に出ていかなければいけないというのは、相当なフィジカル能力が求められます。

 それができる1トップは現状なかなかいないけれど、サイドの選手であればそれができる。サイドの選手はどの時代もそういうことを求められているので。前田選手も浅野選手もクラブではウイングをやっていて、代表で1トップに求められるフィジカル能力を備えているということです。

 トップ下の選手が1トップをやる"偽9番"がスペインのトレンドとしてありましたけど、サイドの選手が偽9番をやるのが、今のトレンドになっているということかもしれませんね。

【絶対的なストライカー気質の選手は生きにくい世界】

 守備が優先されるとはいえ、やっぱりゴールを決めている調子のいい選手を使ってほしいと思うのは当然だと思います。僕も現役の頃は、ゴールがFWの絶対的な評価だと思っていました。でも引退して解説をやらせていただくようになって、そういうわけでもないなと思うようになりましたね。

 正直、監督目線になると誰が点を取るかはどうでもよくて、チームが勝てることが大事なわけです。FWの「絶対に点を取りたい」という気持ちを大事にしてもらうのはいいんですけど、チームが勝つためのプレーを最優先してもらわないとチームが勝てないですよね。

 日本代表のFW候補で調子がいい選手はたくさんいますが、点を取る選手というのは往々にしてそれ以外のことをサボっているんです。

 上田綺世選手が一番わかりやすいと思います。ビルドアップには積極的に参加しないし、ボールサイドにまめに顔を出すタイプではない。でもボックスの中ではすさまじい破壊力がある。それでOKという監督なら大丈夫ですけど、どのチームでも適応できるかと言ったらそうじゃなく、監督によって出られなくなる可能性が高くなるのは、点取り屋のジレンマなんです。

 結局、サッカーはチームスポーツで、監督がすべてを決めるわけですよね。格闘家みたいに強ければ勝つというわけではない。監督のスタイルに合わせられる能力と、フレキシビリティがあるかどうかが求められるわけです。

 現代サッカーのなかでファンタジスタが滅亡したように、絶対的なストライカー気質の選手も駆逐される運命にあるのかもしれないですね。

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