岡田武史が語る98年W杯カズ落選の真相「徹底的にシミュレーションした」 (2ページ目)
2010年W杯、"妄想"では決勝に進出していた
遠藤 そうしたストーリーを語る、考えるというのは、監督時代も意識していたことですか?
岡田 よく、「代表監督は試合のとき以外何をしている?」と聞かれますが、僕はビデオを見ながら頭の中であらゆる戦局を妄想していました。「相手がフォーメーションを変えたらこう対応する」にはじまり、「選手が15分ごとにケガしたらどうするか」というイレギュラーなケースも含め、何パターンもシミュレーションします。
たとえば2010年の南アフリカW杯のとき、僕の妄想では決勝に進出しているんです。相手はドイツ代表。0-1で負けている展開で、後半45分ギリギリで右からのクロスを岡崎(慎司)がダイビングヘッドを決めて延長戦に突入。PKになるかというタイミングで、ドイツの選手がペナルティエリア内でダイビングする。そしたらレフェリーがPKの笛を拭いちゃうんですよ、PKじゃないのに。それで僕が怒って文句を言いに行こうとするのをコーチが止めて、試合は負けて準優勝――そんな妄想をしていました。
遠藤 いちスポーツファンとして、それはぜひ見たかった展開です! でも、それだけのシミュレーションをしていたからこそ、結果的に決勝トーナメント進出につながったんですね。
岡田 結構、妄想は役に立つんですよ。実はW杯に行く前、(元アーセナル監督の)アーセン・ベンゲルとかから「日本はリードしていても最後にセットプレーで点を取られて終わるんじゃないか?」と言われていたんです。それもあって、強豪チームとの試合で1-0で勝っているときに、最後までどうやって守りきるかを考えていました。
遠藤 どんな展開を妄想していたんですか?
岡田 ディフェンダーを入れたらみんなの気持ちが後ろ向きになって負けるだろうなと。じゃあ、前で追い回してヘディングで競える選手を入れようと考えたら、僕のなかで1人しかいなかった。矢野貴章です。僕は最後に貴章を入れるシミュレーションを組んでいました。そしたら、カメルーン戦の最後に本当に同じ状況が来たんですよ。
遠藤 周りには予想外の選出であっても、岡田さんは"妄想済み"だから迷いはない、と。
岡田 そう。そしたら、貴章が相手選手を追い回してフリーキックを見事に1本クリアしてくれた。
遠藤 緻密な妄想が勝負を決めたとも言えますね。ビジネスの世界でも、優れた経営者には妄想癖がある人が多いと言われるのですが、それに似ているかもしれません。
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