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岡田武史が語る98年W杯カズ落選の真相「徹底的にシミュレーションした」 (4ページ目)

  • 村上佳代●取材・文 text by Kayo Murakami

似て非なる「経営者」と「監督」

遠藤 そうした"妄想力"や決断の覚悟、胆力は監督時代に培われたんですね。実際に経営をやられていて、監督と経営者の共通点、違いを感じることはありますか?

岡田 人をマネジメントしながら同じ目標を目指す、という点は同じですね。違うのは監督と選手は1年やってダメなら取り替えられますが、経営者は社員を取り替えたり、自分が投げ出したりができないことかな。
 
 監督は大きな鉛の塊に押しつぶされそうなプレッシャーはあるものの、案外、「この野郎、やってやる!」という感じで頑張れるんですよ。でも経営者は社員を守らないといけないので、勢いだけでは乗り越えられない。じわじわと首を絞められていく感じがあります。監督時代は夜寝られないことなんてなかったのですが、今は(会社と個人の)貯金残高が0になる夢を見て、飛び起きることもありますから。

遠藤 監督も経営者も「リーダー」という意味では同じですが、チームマネジメントと組織マネジメントは同じ方法論が成り立つのでしょうか?

岡田 サッカーの場合は、「この1年で結果を出す」という気持ちで、短期で区切って、結果を出すためにある程度きつく管理したほうが成果は出ます。でも、長くは続かない。どうしてもマンネリ化してしまいます。

遠藤 なるほど。それに比べて企業の場合は、もっと長期的な視点が必要になりますね。

岡田 そうですね。企業が成長していくには人の成長が欠かせないことに、最近ようやく気がつきました。以前はなんでも自分でやらなければと思っていましたが、社員を信頼して任せてみたら、みんなしっかり動いてくれて。監督時代、僕は強引に引っ張っていくリーダータイプでしたが、経営者になってからは人を育てることに喜びを感じられるようになりました。

遠藤 人が成長すると組織は成長します。でも、組織の成長ばかりを優先して、見かけの売上だけが増えることがあるんです。これは成長ではなく、単なる膨張です。多少成長のスピードは落ちても、人の成長を優先させることが健全なチーム、サスティナブルな組織につながると思いますね。

岡田 成長と膨張の違い。表面的なものばかりに目を向けるのではく、人を育てて組織の芯を強くすることが大切なんですね。

(後編につづく)

【Profile】
岡田武史(おかだ・たけし)
株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長。1956年大阪府生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。1980年、古河電気工業サッカー部に入団。1990年に現役引退後、日本代表のコーチを経て、監督に就任。1998年、W杯フランス大会に出場する。その後、コンサドーレ札幌、横浜F・マリノスの監督を務め、2007年に2度目の日本代表監督に就任。2010年、W杯南アフリカ大会ではベスト16入りを果たした。代表監督退任後、中国スーパーリーグの杭州緑城監督を経て、2014年、FC今治のオーナーに就任。

遠藤功(えんどう・いさお)
株式会社シナ・コーポレーション代表取締役。1956年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)取得後、三菱電機、複数の外資系戦略コンサルティング会社を経て、現職。2005年から2016年まで早稲田大学ビジネススクール教授を歴任。現在は、独立系コンサルタントとして、株式会社良品計画、SOMPOホールディングス株式会社、株式会社ネクステージ、株式会社ドリーム・アーツ、株式会社マザーハウスで社外取締役を務める。著書に『生きている会社、死んでいる会社』『新幹線お掃除の天使たち』『コロナ後に生き残る会社 食える仕事 稼げる働き方』など。

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