「ニシノー、全力で走ってみろ!」。
秘話で明かす代表新監督の人物像 (3ページ目)
天才肌で感覚的なプレーをする選手に厳しく当たる傾向が見え隠れした。「現役時代の西野さんに似ていますけど......」と、突っ込みを入れたくなった記憶がある。
我々に対しても似た傾向があった。南米在住歴の長い、派手めな外見のカメラマンを、突然、些細なことで怒鳴りつけたりしていた。女性には優しそうなまさに優男(やさおとこ)風だが、キレると怖いのだ。そのギャップに驚かされた記憶がある。
好みのタイプは現役時代の西野さんとは真逆の勤勉な選手。技巧的だが地味に走って各所をカバーする伊東輝悦を「テル、テル」と呼んで可愛がっていた。後に「マイアミの奇跡」と呼ばれたアトランタ五輪のブラジル戦で、決勝ゴールを記録したのがその伊東だったことに、因縁を感じずにはいられない。
この五輪チームには、事件も起きた。アジア予選を控えてマレーシアで合宿を行なっていたその最中、紅白戦で、エース格の小倉隆史が負傷した。空中戦で着地した際に、雨でぬかるんでデコボコになったピッチに足を取られ、倒れ込む。右足後十字靱帯断裂の重傷だ。
小倉は事実上、このケガでトップ選手としてのキャリアを棒に振ることになるのだが、この一件には、西野さんが微妙に関っていた。紅白戦はタイムアップの時間を迎えていたが、もう少し様子を見ようとしたのか、西野さんは、その笛を吹くのを少しためらっていた。事件はその瞬間に起きた。
西野さんは慌てた。紅白戦どころか、練習そのものも、その瞬間、打ち切りにした。そして夜通し、病室の小倉に付き添った。ケガの痛みにうんうんと唸る小倉の脇で、西野さんは、机に拳を何度もガンガンと叩きつけていた――とは、後に小倉本人から聞かされた話だ。
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