世界王者とドロー。高倉新監督が取り戻す「なでしこの神髄」 (4ページ目)
「逆サイドを捨ててでも、ボールに対してしっかりとプレッシャーかけよう」
中途半端になっていたプレスの意識を修正し、ボールの出どころを潰すイメージを注入した。これまでは周りに引き上げられて受け身に回ることが多かった阪口が、自らリーダーシップを取った瞬間だった。ピッチでは持ち前の攻撃の芽を摘み取る読みはもちろん、ときにはゴールを生むラストパスを通し、ときには最終ラインでボールを掻き出すマルチな動きを見せた。偉大な“10番”を引き継いだ阪口。多くを語らないが、その変化に阪口の覚悟を見た気がした。
この90分間を1試合と捉えず、得点経過にとらわれず選手を起用した高倉監督だったが、それでも不思議とぶつ切り感はなく、流れを感じながら選手たちは順応していた。もちろん3失点については大いに修正の余地はある。しかし、狙いをシンプルに絞ったことで、個々の役割が明確になった。荒療治とも言えるが、ようやく新生なでしこジャパンがスタート地点に立った。
最大の収穫は、この戦いでなでしこたちが自らの内にある“神髄”を蘇らせたことだ。リオデジャネイロオリンピック予選での敗北は、今もなお彼女たちの心に大きな影を落としている。だからこそ、この一戦はなでしこジャパンにとって、単なる親善試合ではなかった。
「なでしこはまだ倒れてないっていうことを世界に見せてやろう」――高倉監督が選手たちに伝えた一言にすべてが集約されている、そんな90分間だった。
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